〈するめ基金〉報告会での確かな手応え

村上春樹

 クレアの「熊本地震救済〈するめ基金〉」で集まった浄財1350万円余りがどのように使われたか、その報告を兼ねて現地、地震後4年を経た熊本に行ってきました。

 僕と都築響一くんは東京から飛行機に乗っていって、吉本由美さんはしばらく前から故郷の熊本住まいなので、現地で「するめクラブ」の三人のメンバーが合流しました。

 ドリカムとまではいかないけど、三人で顔を合わせるのは久しぶりです。

 折悪しく、ちょうどコロナウイルスが大きな脅威となり、まるでイナゴの大群のように世界に降りかかってきた時期にあたり、イベントを中止するべきかどうか、みんなですごく迷ったんだけど、せっかく予定を組んでしまったんだから……というシンプルな流れのままに、思い切って決行することになりました。

 都築くんも僕も基本的に「まあ、だいたいなんとかなるだろう」という姿勢のもとに日々を過ごしている人間なので。

 でも僕らが熊本空港に到着したちょうどその日に、熊本県でも三人の感染者が出たというニュースがテレビで流れ、やはりそれなりのシリアス感がありました。

 世界は本当に数多くの災害に満ちているものですね。「だいたいなんとか」ならないものごともまわりにいっぱいあります。気を引き締めなくては。

 熊本に着くと、三人でまず最初に水前寺公園の近くにある熊本市動植物園に行きました。そして猫類好き吉本さんの熱愛を込めたガイドのもと、めでたく新装なった猛獣舎を見物しました。

 ここには猫科の動物たちが集められている。以前は柵で隔てられていたのだけど、今ではガラス張りになっていて、すぐ間近に大猫たちを観察することができる。

 小さなライオン三兄弟はとても可愛かった。この猛獣舎の新築費用には「するめ基金」の一部が回されているはずです。大猫たちはそんなこと、とくにどうでもよさそうだったけど。

 でもせっかく熊本市動植物園なんだから、「くまモン」を一匹、どっかの檻に入れておいたらどうだろう…みたいなことを考えるのは僕くらいだろうか? きっと受けると思うんだけど。

 それから僕の受け持ちである、夏目漱石の旧宅に行きました。

 この前うかがったときは地震のために漆喰壁があちこちで崩れていたんだけど、「するめ基金」もそれなりにお手伝いできたようで、すっかりきれいに修復されていました。

 百年以上前に建てられた家だけど、今でもしっかり文豪風のたたずまいを残しています。ここの二階の書斎でなら僕にも立派な文学が書けそうです……書けないか。

 そのあと午後七時から「するめ基金」報告会がありました。そしてコロナのことなんてとりあえず忘れて、二時間ほど和気藹々と、楽しい時間を持つことができました。

 会計報告のあと、僕は短い作品を二つほど朗読し、都築くんは武漢の事情について語りました。

 そうか、武漢にも秘宝館があるんですね。すごいなあ。たぶん(今はそれどころではなくて)一時閉館していると思うけど。

 報告会が開かれた会場は、前回もイベントを開いた熊本市内の「早川倉庫」です。

 古い木造の大きな倉庫にずらりとパイプ椅子を並べただけなんですけど、独特の親密な雰囲気が漂っていて、僕はこの場所がなかなか気に入っています。

 ここに二万五千人ほどの人が集まりましたーーというのは噓で本当は250人くらいです。しかし250人がみんなマスクを着用していると、かなりシリアスな眺めですね。僕と都築くんと吉本さんは壇上でしゃべるので、さすがにマスクはつけていませんでしたが。

 みんなこのやばい時期にそれなりの危険を承知の上で……というか、緊張感を抱きつつやってきた人々の集まりなので、イベントを終えてみると、そこには「思い切ってやって良かったな」というそれなりの達成感みたいなものはありました。

 連帯感、とまでは言えないまでも、みんなで一緒に何かをおこなった、というような確かな手応えです。もちろん僕らとしては、その集まりから感染者が出たりしないことを、ただ祈るしかなかったわけですが。

 寄付金の行く先については、編集部から細かい報告が記載されることと思います。でも実際にこういうことをやって痛感したんだけど、日本の寄付金システムというのはなんだかずいぶん不便というか、使い勝手が良くないですよね。

 お国とか、日赤とか、そういう大きなところに寄付をしても、大方の場合、自分の寄付したお金がどこにどう使われたのか、僕らにはぜんぜんわからない。「お金をここに振り込みなさい、使い途はこっちで決めてあげるから」みたいなことになってしまっている。でもせっかく寄付したんだもの、ある程度使い途は知りたいですよね。

 というわけで、今回の「するめ基金」は「使い途をできる限りピンポイントで報告する」という方針でやりました。

 そういうルートが確立されていないので、手続きはいろいろと大変でしたが、手がかかった分、具体的に何かのお役には立てただろうという実感はあります。

 結果を報告するまでに四年も要してしまいましたが(すみません)、寄付して下さったみなさん、本当にありがとうございました。クレア編集部のみなさん、とりわけ当時の編集長だった井戸川恵子さんと、編集部員だった竹田直弘さんは、途中で部署が替わったあとも、この寄付手続きのために何度もわざわざ熊本に足を運んでくれました。感謝します。

 これからもおそらく、いろんな災難が世界に降りかかってくると思いますが(もちろん来ないでくれたらそれに越したことはないんだけど)、そういうときにはできるだけみんなでうまく支え合って生きていきたいものですね。

2020.04.14(火)
文=村上春樹、吉本由美、都築響一
撮影=都築響一、平松市聖

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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