主演のプレッシャーから
何も考えられなくなった
『his』の現場

――そんな『his』ですが、ゲイでありながら、女性と結婚し、6歳の子持ちの主人公・日比野渚という難役を演じられています。役作りに関してはいかがでしたか?

 恥ずかしい話なんですが、撮影中、何も考えてなかったんです。と言いますか、あまりに大役すぎるプレッシャーもあり、自分のこれまで役者人生で学んだことでは補えなくなり、何も考えられなくなってしまったんです。

 カメラの存在すら意識してない状態でしたし、いつもなら子役の子と関係性を作り上げることで演技に生かすとか考えるんですが、その感覚を通り越して、ほぼ友達のような。

 だから、普通に喧嘩することもありました(笑)。27歳になる前に、いい経験をさせてもらいました。

――劇中には宮沢氷魚さん演じるパートナーの井川迅との関係性だけでなく、妻と親権をめぐる法廷シーンなど、リアルな描写もありますが、完成した作品をどのようにご覧になりましたか?

 この作品で扱っているテーマが海外の人にとって新しいか、古いか、そんな評価も気になります。ただ、この映画をきっかけに、10年後とは言わず、少しでも早く同性愛の方々が手を繋いで外を歩ける世になればいいなと思っています。

2020.01.10(金)
文=くれい響
撮影=佐藤 亘
ヘアメイク=山崎惠子