バスガールからボンドガールへ
でも、知識不足と勝手な思い込みから生まれるあの手の誤解って、僕、嫌いじゃないんですよね。
例えば、ロサンゼルスにある空手道場なんかに行くと、この先生大丈夫かなと思うような、何だか変な教え方してたりするし、日本料理店の看板を掲げた外国の店に入ると、韓国も中国もごちゃ混ぜになったメニューを提供してたりする(笑)。ああいうのに惹かれちゃうんです。
浜美枝さんは、すごくエキゾティックな顔つきで、プロポーションも日本人離れしているから、ショーン・コネリーと並んでも違和感がない。よくハーフに間違えられるとご本人がおっしゃっていたそうですが、ハーフでも何でもないんですよね。
僕は、小学生の時に横浜の日吉に住んでいたんですが、浜美枝さんは昔、あの辺りを走るバスの車掌さんをやっていたというんですよ。中学校を卒業してすぐに就職し、少しの間東急バスに務めた後、東宝のオーディションに合格したらしい。
あの頃の日吉の住民は、車掌時代の浜さんを見たことを誇らしげに語ったものです(笑)。まあ、あれだけの美人ですから、さぞかし人目を引いたことでしょうね。しかし、バスガールからボンドガールへ、何とも華麗なる転身です。
東宝でデビューした浜さんは、星由里子さん、田村奈巳さんとともに「東宝スリーペット」と呼ばれました。ペットって、今なら問題になりそうな名前ですけど(笑)。
その後は、クレージーキャッツ主演のコメディ映画や、『キングコング対ゴジラ』にも出ています。東宝のドル箱シリーズばかりですね。
僕もこれらの映画は目にしていたはずなんだけど、そこに出ていた浜さんと『007は二度死ぬ』の浜さんが自分の中で一致していなかった。そのぐらい雰囲気が違ったってことなんでしょうね。
2019.10.10(木)
文=下井草 秀(文化デリック)
写真=文藝春秋