都心に湧く露天風呂の温泉で
空を見上げれば……
「星のや東京」は全84室。満室でも混雑感がないのは、1フロアに6室という贅沢な造りだから。
各客室フロアには共有スペースの「お茶の間ラウンジ」があって、お茶を飲んだり、おやつを食べたり、読書をしたりと、思いのまま過ごすことができる。
畳続きの客室から24時間自由に行き来できるこのスペースは、いわばお茶の間のようなもの。
もちろん、客室にもコーヒーやお茶は用意されているけれど、気分を変えてくつろぐのもまた一興。
旅先で居合わせたゲスト同士が語らいあう風景も、国際都市の東京らしい。
客室に用意されているのは、日本を代表する着物デザイナー、斉藤上太郎によるデザインの“キモノ”。
着心地がよいジャージ素材を使用し、誰でも簡単に着られる滞在着は、館内だけでなく、タウンウエアとして着ることができるから、これを自慢するために、外を歩きたくなる。
さあ、着物に着替えたら、さっそく最上階の17階にある天然温泉へ。
お湯は地下1,500メートルから湧く大手町温泉。
内風呂から続く露天風呂で頭上を見上げれば、天井の隙間に空が。都会の真ん中に温泉が湧き出ている意外性もさることながら、静けさにも驚かされるはず。
都会の上空に、こんな静寂があるなんて!
褐色がかった色の温泉は、塩分が強くしょっぱい。温泉に入っているなあと実感するとともに、都心で露天風呂に入る優越感にも浸れてしまう。
湯上りは2階のロビーへ。ここでは、夕方になると太神楽が披露され、日本酒が振舞われる。
季節ごとに選んだ日本酒の飲み比べやおつまみを楽しむ時間は、江戸の情緒が満載。現代にいることも、ここが都心であることも忘れてしまう贅沢な時間だ。
2019.06.29(土)
文=芹澤和美
撮影=鈴木七絵