vol.1 名盤篇

 AORの定番として語られることの多い名盤も、当時の日本盤レコードにはヘンテコな帯が見られたりする。

 いや、その方が多いと言ってもよいだろう。

 今回は、そんなAORの名盤を蝕むダサい帯をいくつか紹介しようと思う。

クリスタルなムードが台無しに

ボビー・コールドウェル『イブニング・スキャンダル』(1978年)

シルエットは揺れ動く、スキャンダラスな夜。
今夜はトロピカル・ランデヴーとシャレてみようぜ!!

 「ミスターAOR」とも称されるボビー・コールドウェル。そんな彼のデビュー・アルバムの帯には、こんなキャッチコピーが付けられていた。

 「シルエット」「ランデヴー」などのカタカナ英語が醸し出すはずだったクリスタルなムードを、末尾の「シャレてみようぜ!!」という文体が全て台無しにしている。素晴らしい文章だ。

 また、アルバムの邦題は、一般的に英題・曲名・歌詞に使われている英単語を組み合わせて作られることが多いのだが、この作品には「イブニング」も「スキャンダル」も一切登場しない。

 きっと、アルバムジャケットを見ただけで思いついた英単語を並べたのだろう。

 でも、このアルバムに収録された定番曲「What You Won’t Do For Love」の邦題「風のシルエット」は、個人的にはナイスなネーミングだと思っている。

 ちなみに、彼のデビュー当時に曲がラジオでオンエアされると、そのソウルフルな歌声と素顔を隠したジャケットから、黒人のヴォーカリストであるとの噂が絶えなかったそうだ。

 だが、そんなイメージ戦略も日本盤の帯の前では無力であった。

2017.12.05(火)
文=福田直木(ブルー・ペパーズ)
撮影=平松市聖