音楽ビジネスとITに精通したプロデューサー・山口哲一。作詞アナリストとしても活躍する切れ者ソングライター・伊藤涼。ますます混迷深まるJポップの世界において、この2人の賢人が、デジタル技術と職人的な勘を組み合わせて近未来のヒット曲をずばり予見する!

 さて、近々リリースされるラインナップから、彼らが太鼓判を押す楽曲は?

【次に流行る曲】
the peggies「スプートニク/LOVE TRIP」

YUKIの声を思い出させるヴォーカル

伊藤 今回は、the peggiesの1stシングル「スプートニク/LOVE TRIP」。中学の同級生で結成し、2011年、高校1年の時から本格的にバンド活動を始めた3ピースガールズバンド。

山口 今回もUltron世代の女性アーティストですね。ハマってる(笑)。

伊藤 ハマってますよ(笑)。別にウルトロンだから選んでるわけじゃないけど、自然と彼らが入ってくるんですよ。ウルトロン世代の感性がグサグサきます。ちょっと前にたまたまthe peggiesがインディーズで出していたアルバム『NEW KINGDOM』の1曲「グライダー」を聴いたことあったんです。ヴォーカルの声がYUKIっぽいんだけど、バンド全体として聞いてみると粗削り。いい意味で声とバンドがフィットしていて気にはなっていました。

山口 YUKIちゃんの声は、耳に張り付いて離れないワンアンドオンリーな存在ですが、たしかに近いイメージはありますね。同時に、バンド感もあるのが魅力的だと僕も思いました。

伊藤 何よりも「スプートニク」というタイトル。どうしたって村上春樹の『スプートニクの恋人』を連想させるんだけど、歌詞を見た感じインスパイアされた印象は持てない。だけどハタチそこそこの女子がつけるタイトルとしては異色だし、作詞をしているギター&ヴォーカルの北澤ゆうほの今までの詞の世界観を考えると『スプートニクの恋人』には接触していると思うんですよね。

山口 「理解というものは、つねに誤解の総体に過ぎない」でしたっけ? 僕は、世代的にはモロに村上春樹世代で、同世代のガールフレンドは必ずと言ってよいほど、文庫本を持っていましたが、若い頃はあの文体があまり好きになれずに、熱心な読者ではなかったです。

伊藤 そうなんですね。オレはそれなりに彼の作品は読みましたよ。その中でも『スプートニクの恋人』は好きなほうです。だけど『ノルウェイの森』は映画で済ませちゃったし、『1Q84』も読んでいないので村上ファンってことではないです。ただ作詞をするときにインスパイアされることはありました。村上ワールドを詞に反映するのは難しいけれど、1冊に2、3フレーズくらいはバチッとクルときがあるんです。もしかしたらthe peggies「スプートニク」にも、よく探せばそういうところがあるのかもしれません。

山口 僕は、メディアアーティストの「スプツニ子!」をイメージしました。破天荒さに通じるところがあるような気がしましたが、関係なさそうですね。(笑)。

伊藤 たぶんないですね(笑)。

2016.10.14(金)
文=山口哲一、伊藤涼