移動そのものがご褒美に。進化する旅の価値観
日常の移動時間が自分に戻るひとときになる──。そんな視点で語られたあと、話題は旅における移動を巡る新しい潮流の話に。
今、旅行の分野では“移動そのものを楽しむ”という価値観がさらに進化しています。会場では、移動時間そのものが豊かな体験へと変わる最新の事例がスライドで紹介されました。
たとえば、列車での旅。豪華寝台列車「TRAIN SUITE 四季島」は、走るスイートルームのような空間で、車窓の景色や地域文化との出会いを楽しめる旅を提案。西日本を巡る「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」も、専用ラウンジや贅沢なスイートルームをしつらえ、移動そのものを“もてなしの時間”へと昇華させています。
船の旅でも同様に、最新のクルーズ船「飛鳥III」や「MITSUI OCEAN FUJI」では、上質なサービスはもちろん、仕事と旅を両立できるワーケーション型プログラムなど、乗船中の時間そのものを充実させる工夫が随所に盛り込まれています。
クリス どの旅もゆったりとした時間が流れていそうですね。移動そのものをどれだけ豊かな体験にしていけるかがポイントだと思うのですが、どう感じられましたか?
松浦 本当にすごいですよね。ちょっとアトラクションのような特別感があって、自分へのご褒美として楽しめそうだなと感じました。
纐纈 一度は体験してみたいですね。予約を取るのが大変だと聞いていますが、こうした移動中の体験の場を日常の中に増やしていくことは、とても大事なことだと思います。
クリス 移動の時間って、何かを学んだり、新しい視点を得たりする瞬間がありますよね。先ほど話題に出たアップデートという感覚もまさにそれで、私たちは常に新しい自分に出会いたいという思いを持っていますからね。
松浦 そうですね。移動の目的は、目的地に着くことだけではなく、移動している時間をどう過ごすか、そこにこそ価値があるのだと思います。
クリス まさにその通りですね。ご紹介した事例からも、旅の目的と移動時間の捉え方が変化していることがおわかりいただけたと思います。移動そのものをいかに豊かにしていくか、それが今や日常や旅において重要なテーマとなっています。
車が第4の居場所になる。AFEELAの示す新しい空間価値
クリス 旅の目的と移動時間の価値が変化する中で、まさにその未来を象徴するのが、AFEELAの掲げる「移動空間を感性の場に」というコンセプトです。親しみやすく、思わず惹きつけられる考え方ですよね。
纐纈 今日ここにAFEELAの初のモデル、AFEELA 1が展示されていますが、まず私たちが目指しているのは、人とモビリティの関係をより良いものへと進化させることです。これまでは「人が主人、クルマは従うもの」という一方向の関係でしたが、これからはモビリティのほうからも人に働きかけるような、双方向の関係性をつくっていきたいと考えています。
ブランド名のAFEELAには、中央に“FEEL(感じる)”という言葉を据え、感性に寄り添うモビリティをつくりたいという想いを込めています。では、その理念をどう体現するのか、一つの大きな方向性として掲げているのが“運転しない車”の実現です。
ナビで目的地を設定すれば、車が自動で走行し、曲がり、止まってくれる。そんなふうに運転の負担を軽減していきたいと考えています。そして、運転が主目的でなくなったとき、車内は体験を楽しむ空間へと変わっていくはずです。
私がよくお話しするのは、「モビリティ空間をクリエイティブなエンターテインメント空間にしていきたい」ということ。立体音響で映画を楽しんだり、車内のインテリアを壁紙のように切り替えたり、自分好みにカスタマイズしながら多彩な体験を味わえる車を目指しています。
松浦 まさに部屋ですよね。確かに車ではあるけど、それを超えてまったく新しい日常の道具として体験したいなと思います。
纐纈 ありがとうございます。日常には、ファーストプレイスである家や、セカンドプレイスである職場、学校といった居場所があり、さらにサードプレイスとして1人になれるカフェなどもあります。AFEELAは、その先のフォースプレイス(第4の居場所)になり得るのではないかと考えています。自由とプライバシーが共存し、自分のためだけの時間が流れる場所として機能するのではないかと。
松浦 人とモビリティの関係性の話、とてもいいなと思いました。車が自分の部屋のような存在になったとき、この新しいモビリティが友人のようにコミュニケーションを取り、自分のことを理解して寄り添ってくれる存在になったら最高ですよね。
纐纈 このモビリティにはAIエージェントが搭載されていて、SiriやGoogle アシスタントのように指示に応えるだけでなく、双方向で対話することができます。
たとえば、その人の好きな場所や音楽、食べ物といったコンテキストを理解・記憶し、朝には車のほうから「おはようございます」と挨拶してくれる。そこから自然な会話の流れで目的地や音楽のプレイリスト、車内の壁紙の色みなど、その時々の気分を探りながら提案してくれます。
松浦 あ、それいいですね。自分の知らない音楽を「きっとこれ好きでしょ」と勧めてくれたり、公園やカフェなどの場所も「きっと気にいると思うんだけど、どうですか」と教えてくれたらいいですよね。
松浦 車というと、スピードや馬力といった性能面を高めていくカルチャーがあるかと思いますが、AFEELAは乗る人の心地よさがまず尊重されている印象があります。
纐纈 もちろん走行性能は大切で、AFEELAもそこはしっかり追求しています。ただ、一つの仕様で万人にフィットする車をつくるのは難しい。だからこそ、乗る人それぞれにどう最適化するか、どのようにパーソナライズしていくかを重視しています。
クリス 先ほどお話にも出ましたが、自動運転が可能な世界になると、車との付き合い方はどのように変わっていくのでしょうか。
纐纈 すでに中国では、ナビで目的地を設定すると車が自動で運転してくれるシステムが普及し始めています。アメリカでも、テスラのフルセルフドライビングのような高度な自動運転が登場していますし、ロボタクシーと呼ばれる無人走行のサービスも一部の都市では実用化されています。
こうした流れを見ると、運転しなくていいモビリティの世界はもうすぐそこに来ていると感じます。そのときに大きく変わるのが、移動中の時間の質です。運転の負担が減ることで、車内で自由に使える可処分時間が生まれる。その時間をどう豊かにするかが、自動運転時代における重要なテーマだと考えています。
クリス 自動運転が進むことで移動中の時間をこれまで以上に自由に使えるようになった場合、松浦さんはその時間をどのように過ごしたいと思いますか?
松浦 まず、自動運転化で僕らが体験できるのは静けさだと思います。静かな場所って、探すと意外とないんですよね。もし移動中にその静けさが手に入るなら、本を読んだり、学びの時間に充てたり、インプットの時間として活用したいですね。
せっかく生まれた時間を、これまでできなかったことに使いたい。僕たちって、いつの間にか諦めていた時間の過ごし方があると思うんですよ。やりたかったのに忘れていたこと、挑戦したかったのに後回しにしていたこと、そうした本当はやりたかったことに充てられたら素敵ですよね。
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- 文=佐藤由樹
写真=橋本 篤 - keyword










