「ミュージカルのスコアなんて見たこともなかった」(近田)

渡辺 そして、渡辺プロの子会社である渡辺エンタープライズに入った私は、オフブロードウェイで上演されていた、とあるミュージカルの上演権を買ったんです。『3 Guys Naked From The Waist Down』というその作品は、男性三人だけで演じる破天荒なコメディでした。タイトルを邦訳すると、「下半身丸出しの三人の男たち」(笑)。その音楽監督として、近田さんに音楽監督を何とかお願いしたいと拝み倒したんです。

近田 邦題は『3 Guys!』。キャストは柳沢慎吾と巻上公一、山崎イサオの3人でした。でも、僕はさ、何パートもあるミュージカルのスコアなんて、それまで書いたことはおろか、見たことすらなかった。自分だけじゃとても無理だから、当時、一緒にビブラトーンズというバンドをやっていた窪田晴男の手を借りたんだけど。

渡辺 よくぞ引き受けて下さいました!

近田 当時は、来た仕事は断らないって決めてたんですよ。何とかなるだろうって。結局、このミュージカルの仕事も、四苦八苦の末、初日に間に合わせました。あれをやり遂げたことは、自分にとって糧になった。本当に感謝してますよ。

渡辺 あの作品の準備段階では、私は、プロデューサーを名乗っていながら、自分が何をやっているのかよく分かっていなかったと思うんですよ。だから、私が接触したほとんどの大人も、その雰囲気を察知して、はっきりとは断らずとも、それとなく上手に私の前から立ち去って行った。まともに付き合って下さった近田さんをはじめ、数人の大人の方々にめちゃくちゃ骨を折っていただいたこと、感謝しても仕切れないのです。

近田 そうだったんだ。

渡辺 私、既存のミュージカルの世界に知り合いはいなかったんだけど、もしも知り合いの伝手をたどったなら、誰かしら紹介はしてくれたと思うんです。

近田 そりゃそうだよ。渡辺プロの社長夫妻の娘なんだから。

渡辺 でも、それはやりたくなかったんです。それをしたら、新しいものはできないという確信があった。スピリットとしては、ロックですよね。

近田 うん。ロックだよね。

渡辺 最近の若い人たちには、「ミキさんってヒップホップですよね」って言われるんですよ。今は、ロックじゃなくて、ヒップホップが誉め言葉なんだなと(笑)。

近田 なるほど(笑)。

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