偶然が重なった末の“万バズ”

——そもそもかれんさんは、なぜ今回の投稿をしようと思ったのですか?

かれん 今でもすごく覚えてます。京都でライブの予定があって、大阪から京都に向かう長時間の電車の中で、座って『そして誰もゆとらなくなった』を読んでいたんです。そしたらあまりにも面白すぎて、途中で読み終わるのが惜しくなって、いったん読むのを中断したんですね。

 それで何気なくカバーの著者紹介を読んでいたら、最初は普通の文章だったのにだんだん雲行きがあやしくなってきて……最後に「木こり」って言葉が出てきて、衝撃を受けました。「めっちゃ面白い! すごい!」ってなって、衝撃すぎて思わずその場で写真を撮ったんです。

朝井 電車で読んでくださっていたんだ! ということは、その時点で投稿はしなかったんですね?

かれん はい。最初は記録として撮っただけのつもりでした。でも、その日の夜11時ぐらいに「何かXに載せたいけど、どうしようかな」と考えたときに、朝井さんの著者紹介が面白かったから共有したいって思ったんです。そうしたらこんなに反応があって、本当にびっくりでした。

朝井 うわあ、本当に色々な偶然が重なってる。乗っていた電車から見えた景色がすごく綺麗だったり、虹が2つかかっていてその写真を撮ってたりしたら、今回のポストは無かったわけだ!

かれん そうかもしれません(笑)。最初は、撮った写真に「おもろすぎる」みたいな一文を添えて投稿しようと思ったんですが、ちょっと考えて、「いや、『おもろすぎる』だけじゃおもんないかな」って……。色々考えた結果、あの文章に行きつきました。

——バズった後、ファンの方からも何か反応がありましたか?

かれん ありました! 「あの本を買ったよ」「あのポストをきっかけに読み始めたよ」って報告をして下さったり、一緒にチェキを撮るイベントで『そして誰もゆとらなくなった』の本を持ってきて下さったり。「これで一緒に撮ろう」って提案をされたときは、「私が作者みたいになってるけど大丈夫かな?」と思いました(笑)。

朝井 重ね重ねありがたいです。今回お会いできるということもあって、カラフルスクリームさんのMVやライブ映像を拝見したんですが、まず歌詞が本当に素敵ですよね。

かれん えっ、ありがとうございます!

朝井 様々なアイドル楽曲がある中、カラフルスクリームさんの曲にはしっかり感情の描写があって、そこが私好みでした。しかも言葉の韻も細やかに踏んでいて、言葉遊びが巧み。その両立がすごいですよね。ああいう楽曲を聴き慣れていると、ファンの方々も潜在的に言葉への感度が高くなるのでは? と思ったりしました。だからあの投稿が拡散された流れにもある種の必然性があったんじゃ、なんて思いつつ、でもやっぱり偶然の重なりに驚いています。

 元々、この著者紹介は最初のエッセイ(『時をかけるゆとり』)が文庫になった時に「もしかしてこのスペースで遊べるのかな」と思って始めたんですよね。文庫が刊行されたのが2014年だったから……かれんさんがまだ10歳の頃に植えた種を、ようやく今収穫いただいた! という気持ちです。

かれん 「木こり」って言葉選びが本当にすごいです(笑)。これが例えば「トマト」だったら違った印象だったと思います。

朝井 そうそう、前後の文脈と全く関係ない言葉って意外とセレクトが難しいんですよ。ここもミスってたら拾っていただけてなかったんだ、危なかった~!

〈プロフィール〉

朝井リョウ 1989年5月31日生まれ。岐阜県出身。小説家。2009年、早稲田大学在学中に『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。『何者』で第148回直木三十五賞受賞。エッセイ『時をかけるゆとり』『風と共にゆとりぬ』『そして誰もゆとらなくなった』(すべて文春文庫)の“ゆとり三部作”が今回のバズにより増刷を重ねる。最新作は『イン・ザ・メガチャーチ』(日本経済新聞出版)。

 

かれん(カラフルスクリーム) 2004年12月12日生まれ。2020年8月より研修生、12月よりカラフルスクリーム正規メンバーに。2025年6月「クロネッカーの青春の彩り」で徳間ジャパンよりメジャーデビュー。大阪大学在学中。

「Xに投稿する前に辞書で調べました」朝井リョウも驚愕!現役阪大生アイドルの慎重すぎるSNS運用〉へ続く

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