いざ、バラの谷へ

ケラア・ムゴナに行く途中のワルザザート近郊には、高い城塞を張り巡らしたクサールが散在する。かつては多くの家族が暮らしたクサールも、現在はほぼ廃墟と化している。

 そしてその日はやってきた。今年の5月の満月前日は朝から快晴で、雲ひとつなかった。9時にマラケシュを発ち、アトラス山脈越えの途中でタジンなどを食べ、まず砂漠の玄関口とも呼ばれるワルザザートをめざす。ここまで来ると空気は激しく乾燥し、砂漠が近づいているのがわかる。

 『バベル』や『グラディエーター』などの映画の撮影地にもなっているカスバ街道は、その昔、ラクダを連れたキャラバンが砂漠からマラケシュへと旅を続けた道だった。ワルザザートからバラの谷までは4WDを飛ばして約1時間半。カスバ(城塞)やクサール(集落)などが点在する風景は、まるで数世紀前の世界にタイムスリップしたような感覚に襲われる。

バラの谷に行く途中で食べた、これぞ! 本場のタジン。マラケシュ-ワルザザート間の食堂では、炭火の上で湯気を上げるタジン鍋に目を奪われる。

 やがて街道は赤茶けた世界から一変して緑豊かな田園風景となり、風がかすかにバラの香りを運んでくる。太陽は西に傾き、車の窓から吹き抜ける風にますますバラの芳醇な香りが強まる頃、車はゆっくりと減速しバラ畑沿いに道を曲がった。車から降り、工場の門を開けて建物の中に入ると、バラ色一色の世界が広がっていた。見たこともないような大量の、恐らく数百キロ分はあると思われるダマスクローズの花冠が、所狭しと部屋を埋め尽くしていた。

 モロッコ名物ミントティーで喉を潤した後、バラ畑を散策しようと建物の外に出ると既に夕暮れが迫り、東の空には満月前日の月が上っていた。これから3日間、工場に滞在してバラの蒸留に立ち会うことになる――。

岡本翔子(おかもとしょうこ)
占星術家。ロンドンにある英国占星術協会で心理学をベースにした占星術を学ぶ。CREAでは創刊号から星占いを担当。月に関する著作・翻訳も多く、月の満ち欠けを記した手帳『MOONBOOK』は、10年以上続くロングセラーに。
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岡本翔子監修・「砂漠とバラと迷宮のモロッコ」ツアーが2016年GWに開催!
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