【BLは掛け算に発見がある。】

 BL業界ではカップルふたりの関係性をかけ算で表します。算数ではA×B、B×Aの答えは同一ですが、BLのかけ算では真逆の答えを導くので、細心の注意が必要です。たとえばAを×の前にA×Bと書けばAは攻、B×Aと後に書けば受という意味なので、順番は絶対に間違えてはダメ。“Aは攻派”と“Aは受派”の読者では、別の銀河系に住む宇宙人くらい相容れません。しかし40年ほど続く特殊なかけ算で表されるAとBの関係性にもここ数年変化が起きている。最近BLマンガで人気の設定は、なぜいつも愛し合うのはふたりなの? 3人目のCもありじゃない? という問いかけです。

喰い合わせがいいって美味。おいしい三角関係を味わう

 彩景でりこさんの3P愛を描いた『チョコストロベリーバニラ』は、1巻ものの傑作です。拾(A)とタケ(C)は幼なじみ。昔から拾はお菓子やおもちゃなど“好きなモノ”なら何でもタケと半分こして共有するという癖があった。ある日、同窓会で再会した高校時代の同級生・ミネ(B)は拾にずっと好きだったと告白する。人間だって例外なくタケと半分こするという拾。自分と付き合う条件はタケも一緒に受け入れることだとミネに迫る。拾に恋焦がれるあまり、ミネはなし崩しにタケも受け入れてしまう。

 三者の思いが交錯し、やがてトライアングルに変化が起きる。3人で恋人という状況が、もし現実の自分の身に降り掛かったとしたら、到底納得できないひとが大多数だと思うが、物語ならそれもありと想像の翼を羽ばたかせて、新鮮な関係性に萌えあがれます。この場合、BLかけ算で表すとC+A×B、いや(A+C)×Bなのか? 公認の表記はまだない。

『チョコストロベリーバニラ』(全1巻) 彩景でりこ

いちごの赤が目を惹く印象的な表紙カバー。左の人物がタケで、右がミネ。肝心の拾は、裏表紙カバーに描かれているという変則的なデザインが素敵。3人で恋人関係は成立するのか? タケとミネを繫ぐいちご=拾の象徴とも取れてますます意味深。
竹書房 619円
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福田里香 (ふくだりか)
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Column

BLマンガ基礎講座

BLはボーイズラブの略。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。実は名作が満載のこのジャンル、食わず嫌いはもったいない!

2016.01.06(水)
文=福田里香

CREA 2016年1月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

冬にしたいふだんのこと、と映画

CREA 2016年1月号

冬にしたいふだんのこと、と映画

定価780円