【BLを読むと心に春が来る。】

 BLは、男子ふたりの恋の行く末を鑑賞して楽しむ客観型マンガです。少女マンガから派生したジャンルだけど、そこが独特というか。とにかくふたりの関係性を楽しむために“萌え”が重視されます。萌えという言葉は比較的新しく、90年代初頭にマンガ、アニメ、ゲームなどのカルチャーの周辺から成立したという説が有力で、必ずしも恋愛感情と同一視できないのが特徴です。本来の意味である“芽吹く”からの連想で、対象への好意・恋慕・傾倒・執着・興奮といったある種の感情が、心の中に春の訪れのように芽生えることを表しています。今は秋。BLを読んで、心にあたたかい春の火を灯しませんか?

戦後の東京が舞台。男4人の恋の行方に萌える

 肌寒い夜には、草間さかえさんの『マッチ売り』シリーズがおすすめです。舞台は戦後昭和の日本。

 友人の有原から返却された本に挟まれていたのは、1枚目が欠けた宛名のない恋文だった。一体、誰に宛てたものなのか? 大学生の廣瀬清高は、大事な手紙を有原に返そうと道路下のトンネルの中で彼を待つが来ない。ふと見ると向かいにヤミ屋のマッチ売りに身を偽った花城青司が立っていた。廣瀬は煙草に火をつけようと花城から燐寸を貰い、ついでに待ちぼうけのいきさつを話す。「何一つお前のせいじゃねえよ」と返した花城は、お人好しの廣瀬に惹かれ、恋文が戻らないよう画策をはじめる。ちょうどその頃、別の場所では花城の部下・澤が恋文を落として絶望した有原を偶然拾っていた。

 一通の恋文で人生を狂わされた4人の男たち。運命の相手と巡り逢う過程が最高に萌えます。心に春が来た日が、あなたのBL記念日です。

『マッチ売り』
(『やぎさん郵便』にタイトルを変更し、既刊1~2巻) 
草間さかえ

草間さかえの人気長期連載作。『マッチ売り』から題名が変わり『やぎさん郵便』1、2巻、連載中の続篇と続くので、読み逃しなきよう。4人のその後や過去篇にますます萌えます。戦後の退廃した空気を見事に写した作画も幻想的で美しい。
リブレ出版 638円
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福田里香 (ふくだりか)
お菓子研究家。『まんがキッチン おかわり』(太田出版)と文庫版『まんがキッチン』(文春文庫)が好評発売中。

Column

BLマンガ基礎講座

BLはボーイズラブの略。ざっくり定義を述べると「主に女性の読者に向けて描かれた男同士の恋愛をテーマにした作品」。実は名作が満載のこのジャンル、食わず嫌いはもったいない!

2015.12.02(水)
文=福田里香

CREA 2015年12月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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