今月のテーマ「女ひとり旅」
【MAN】
あの名作『俺はまだ本気出してないだけ』に匹敵する切なさ度
28歳になったヒロインの夢子ちゃんは、あるきっかけで東京を目指す。うつ病の薬と小銭だけを握りしめ、町から町へ。なにせ14歳から引きこもりだった彼女は、ファミレスでひとりごはんするのも初めて。スナックでカラオケを歌うのも初めて。出会う人々はおどおどしている彼女に優しく、か弱き女のひとり旅でも幸い理不尽な目に遭わない。だが本書にはひとつ大きな謎が仕掛けられている。
旅の最初から夢子ちゃんはずっと一日の終わりに誰かに電話をして旅の報告をするのだが、いったい誰に? それが明かされるエンディングが衝撃的。人は旅を通して成長するというのが道行き作品のお約束だけれど、彼女の旅から感じるのは、「人は何かアクションを起こせば変わるものだ」という不文律からの解放だ。
「何も変わらなくたっていいじゃないか、生きてさえいれば」とたゆたうような時間は、誰もが一度くらい味わってもいい旅かもしれない。
『夢子ちゃん』(全1巻) 青野春秋
40歳にしてマンガ家になる夢に目覚めたダメ中年の悲喜こもごもを描く『俺まだ』の著者が、こんなピュアでフラジャイルな女の子のマンガを描くとは! 不器用だけど一生懸命な夢子ちゃんが抱きしめたくなるほど可愛くて、旅を終えた彼女の心情に思いを馳せずにはいられない。
幻冬舎 1,000円
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2015.06.02(火)
文=三浦天紗子