自らの体内を歩く18歳の少年を妄想
山口 文学少女から好かれる伊藤さんが、この曲から浮かぶ「妄想分析」は、どんな感じですか?
伊藤 僕は体内を歩いている。夕飯のあと自分の部屋で勉強していて、そしたらモーレツに眠くなってしまって、あぁぁぁもうダメだぁ、マラソン中に息があがって歩き出してしまうように、机に突っ伏してしまった。もう大学入試が迫っているのに……。
目が覚めた時には、胃の中だった。ピンクの厚い壁に囲まれ、緑っぽい液体でジメジメしている部屋。まわりを見渡すと牛肉やらピーマンやら竹の子やらが転がっていて、そういえば夕飯にチンジャオロースーをたべたなぁと思う。そして、あぁ、そうか! ここは自分の胃の中なんだと気づく。
立ち上がって、見上げると食道の出口らしき穴がみえて、あそこから落ちてきたんだ、と感心する。だったら先に進まないと、と思って腸の方へ歩き出す。まるでビニールでできた幻想的なドラマのセットみたいな腸の中を歩く。こんなに腸って足場がわるいんだ、と踏みしめながらひたすら歩く。だけどゴールはちっとも見えてこない。
次第に、え~と、なんで歩いているんだっけ? と、記憶喪失した人が、自分の名前や昔のことは思いだせるのに近々のことだけ思いだせないようにモヤモヤする。え~と、勉強しなくちゃいけなかったはずなのに、だけどそれよりもっと人生において意味のあることしたいと思ってたのに。まだお酒も知らないし、車の免許も持ってないし、まだちゃんとセックスだってしたことない。四角くない部屋にいることが不安だし、もう少しで18歳になることに焦っている。っていうか焦りだした。
だけど、僕は腸の中を歩かなければいけなくて、あぁチキショウ!! と思って頬っぺたを力強くつねってみるけど……、この夢らしき世界は全然覚めてくれない。
山口 そう来るか! 全然、文学少女的じゃないじゃん!(笑) 伊藤さんの妄想分析から僕に浮かんだイメージは、映画『マルコヴィッチの穴』です(笑)。
きのこ帝国「桜が咲く前に」
ユニバーサル ミュージック 2015年4月29日発売
1,200円(税抜)
■2007年に大学の同級生同士で結成されたきのこ帝国は、2012年にインディーズからデビュー。本作が記念すべきメジャーデビュー第1弾シングルとなる。表題曲の作詞・作曲を手がけたヴォーカルの佐藤千亜妃の故郷、盛岡で桜が咲き始めるのは、ちょうどこのCDが発売される4月下旬頃。
■「桜が咲く前に」作詞・作曲/佐藤千亜妃
■オフィシャルサイトURL http://www.kinokoteikoku.com/
2015.04.14(火)
文=山口哲一、伊藤涼