古代ローマ帝国の浴場設計士ルシウスが、現代日本の温泉にタイムスリップするコメディ漫画『テルマエ・ロマエ』で知られる漫画家・文筆家・画家のヤマザキマリさん。高校を中退してのイタリア留学、極貧、シングルマザー、そして挫折の日々を語ったNHK Eテレの番組は大きな反響を呼びました。今回、その内容を書籍化した『最後の講義 漫画家・文筆家・画家 ヤマザキマリ』より、一部を紹介します。(全3回の2回目続きを読む

 フィレンツェで肖像画を専攻していたヤマザキさん。先行きが見えず、お金もない日々の中、“自称詩人”の恋人との間に子を授かります。そして出産の瞬間、子どもと生きていくために売れない肖像画から離れることと彼との別れを決意、周囲の勧めで漫画を描くことに。

 完成した漫画が日本の漫画誌で努力賞を得、その賞金で帰国したら、日本はイタリア料理ブームの真っ最中でした。本場を知るヤマザキさんは、テレビ番組で手頃な材料でリアルなイタリア料理を作るコーナーをもつようになったものの……。

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料理を作る人から温泉リポーターに

 「週末はイタリアン」のコーナーを持っていたテレビ局には、北海道中で名前が知られている、テレビで作った料理数がギネス1位になった料理研究家の女性がいまして、そのかたの意見だったのかわかりませんが、あるときを境目に私はテレビで料理ができなくなりました。突然プロデューサーに呼び出され、「ヤマザキさん、あなたは今まで料理を作る人だったけれど、今後は料理を食べたり、温泉に入ったりする人になりませんか?」と言われたんです。いきなり何で? と思ったら、「イタリア時代に浴槽のない家に住み続けて、お風呂に接触できなかった苦しみみたいなものをどこかで話していましたよね? だったら、これからは思う存分、温泉に入るのはいかがですか?」という提案理由でした。

 私は別に料理にこだわりがあったわけではありませんし、作るよりも食べるほうがありがたいですし、しかも温泉にも入れるときたら絶対そっちのほうがいいわけです。快諾して、その後は温泉リポーターをすることになりました。

 最近、私がテレビに出ていると「漫画が売れたから、テレビにどんどん出るようになった」などという言葉を目にすることがありますが、逆です。私はもともとテレビで働いていた人間であり、漫画が売れてテレビに出てみたら「この人、漫画家なのにずいぶんテレビ慣れしてるね、ああ、リポーターやってたんですか、どうりで!」という流れでテレビの仕事も増えていったということです。

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