憧れの初代辰之助と七代目菊五郎

――日本舞踊藤間流の家元でもあり、立役それも線の太い役柄などを代々が得意とされていらしたのが紀尾井町さん(尾上松緑家のこと)。曽祖父である二代目の松緑さんが1970年に創られた舞踊『鳥獣戯画』を歌舞伎座で初上演したのは昨年11月、お父様の松緑さんが猿僧正、左近さんが女狐役で出演されていたのが印象的でした。左近さんによって紀尾井町というお家に女方という新たな可能性が広がりましたね。

 自分は歌舞伎が好きというより紀尾井町の家が好きというようなところがあります。女方に関しては、いただいたお役を通して女方を勉強させていただいたことでその難しさを知り、だからこそより一層学んでいきたいと思うようになりました。

――そもそも女方に興味をいだくようになったきっかけは?

 子供の頃から白塗りの役が好きで、祖父の南郷力丸(初代辰之助=三世松緑を追贈)で弁天小僧をなさっている七代目菊五郎のおにいさんの映像に出会ったのが原点です。それから祖父の映像をいろいろ見るようになり祖父は自分にとって一番の憧れとなっていきました。その一方で、立役も女方もなさる菊五郎のおにいさんのような役者になりたいと思うようになったんです。

――5月にはいよいよ三代目辰之助襲名が控えています。襲名披露狂言は『寿曽我対面』の曽我五郎と『鬼一法眼三略巻 菊畑』の虎蔵。五郎は紀尾井町代々が演じて来た荒事の役であり、虎蔵は七代目さんも勤められた役。まさに目指すところへ近づいているのではないでしょうか。

 ありがたいです。祖父が初めて名のり、父が若くして名のり命をかけて守ってくれたのが辰之助という名前です。辰之助代々が大事にして来た役は自分も勤めたいという思いは強いです。ですが、自分は祖父や父とは体格も柄も違います。憧れは抱きつつ、違う面もしっかりと認識して励んでいきたいと思っています。

【歌舞伎座】尾上左近改め 三代目尾上辰之助襲名披露 ティザー映像

――左近の名で舞台に立つのも残りわずか。改めて襲名への思いをお聞かせください。

 自分にとっても家にとっても本当に大切で大好きな、憧れの名である辰之助を継がせていただくからには、生涯をかけて芸道に精進し、諸先輩方にお力添えをいただき同輩、後輩と手を取り合い、一生歌舞伎に打ち込んでいきたいと思います。


 子役時代を経て左近さんが女方として歌舞伎座の舞台に立った最初は、2021年12月『信濃路紅葉鬼揃』という舞踊でした。坂東玉三郎さん演じる身分の高い女性に仕える侍女のひとりで実はその正体は鬼女。当時まだ高校生だった左近さんにとって鬼女の隈取はまったくの未体験。そこで鬼女のひとりを演じた中村橋之助さんのご自宅で、隈取の手ほどきを受けたそうです。それが「とても楽しかった」と話してくださった左近さん。それは七代目菊五郎さんがおっしゃった「歌舞伎はワンチーム」という言葉を、身をもって実感した出来事だったそうです。その橋之助さんも出演する「新春浅草歌舞伎」、公演は1月26日までです。

初めから読む

新春浅草歌舞伎

2026年1月2日(金)~26日(月)
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/other/play/951

團菊祭五月大歌舞伎

2026年5月3日(日・祝)~27日(水)
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/969

 

Column

今こそ、歌舞伎にハマる!

エンタテインメント性に優れた展開にわくわくドキドキしたり、音楽や詩情豊かな表現の芸術的センスに魅了されたり、物語の奥深い内容に深く感動したり、身体パフォーマンスとしての表現力に圧倒されたり、そして伝統芸能に宿る日本の風情や日本人の心情に感じ入ったり……。歌舞伎という演劇が内包する魅力をさまざまなアプローチでご案内していきます。