親の愛をテーマに母として父として

 尾上右近さんの自主公演『研の會』が大阪・国立文楽劇場と東京・浅草公会堂で開催されます。毎回「キャパオーバーすることで自分のキャパを広げていく」をモットーに、果敢なチャレンジを続けている右近さんが2024年に演じるのは義理の息子に恋をする『摂州合邦辻』の玉手御前と勇壮な舞踊『連獅子』の狂言師右近後に親獅子の精です。

 「母と父、それぞれに親の愛がテーマになりました」と、右近さん。どちらも初役となる右近さんですが、『連獅子』は狂言師左近後に獅子の精として何度も経験しています。右近さんの親獅子で仔獅子の精を勤めることになったのは尾上眞秀さん。公演を前に行われた取材会には眞秀さんも途中から出席し、右近さんは早くも親心を見せていました。

「眞秀さんと『連獅子』を踊りたいという思いは以前からありました。これまで自主公演では圧倒的な主役を演じるという道のりを辿って来ましたが、敢えてふたりの演目を上演したいというのも今回やりたいことのひとつです。眞秀さんは同じ音羽屋で一緒に闘っている仲間であり大事な存在です。相手を信じ、仲間を信じるということも今回のテーマのひとつになると思います」(右近さん)

貴重な稽古場の様子をレポート!

 全体稽古を前にしてふたりによる『連獅子』への取り組みはすでに4月から始まっているとのこと。そこで7月某日、歌舞伎座の稽古場で行われたその様子を取材させていただきました。

 約束の時間に稽古場のドアをそっと開けるとすでに稽古の真っ最中。最初は「早くて(追いつかず)全然うまくいかなかった」という眞秀さんですが、本番まで1カ月以上あるこの段階で振りはすっかり身体に入っている様子です。重心も安定し軽やかに手足を動かしています。

2024.08.16(金)
文=清水まり
写真=榎本麻美(稽古場)