神話に登場する女神たちと「月」

月はたえずその姿を変えながら夜空をゆっくりと進みます。こちらはモロッコはマラケシュのジャマ・エル・フナ広場の夜空に浮かぶ、新月翌日の細~い月。

 夏至が過ぎ、夜空を楽しむ季節になりました(7月には七夕がありますが、それは旧暦で行うのがベター。来月のテーマとするのでお楽しみに!)。夜の暗闇をやわらかな光で満たす月は、多くの古代文明で女神たちに力を与えるものと考えられてきました。一定の周期を繰り返すものの、二日として同じ位置に留まらず、たえずその姿を変えながら夜空をゆっくりと進む様が、女性の性質そのものだとみなされたからです。アルテミス、ダイアナ、セレネ、デーメテール、ヘラ、ヘカテ、イシス、ハトホル……。これらはみな、月と関係がある女神たちの名前です。

 月の女神たちは、月と同じく、様々な姿に変身します。ある女神たちは、純潔で処女を守る若い女性の姿として、また別の女神たちは、多産で豊かな生殖力を持ち、「結婚」を守護するものとして崇められました。年老いた姿で描かれる女神は、神秘や知恵を司り、「死の世界」の媒介者として君臨しています。

 ギリシャ・ローマ神話では、女神には三重の本質があるとして、月のサイクルの三相にちなみ、女神を3つの異なる形で描きます。これは女性の一生を、月のサイクルに照らし合わせた考え方です。三相一体の女神は、処女、母、老女の姿で表され、それぞれ月の位相である満ちていく月、満月、欠けていく月に関連づけられています。

 あなたは今、人生のどの段階にいるのでしょうか? 処女神アルテミスのように、潔癖で男性を受け入れられない状態でしょうか。それとも母性の象徴、デーメテールのように子供を慈しみ育てる段階? また、浮気性のゼウスに対し、「妻」の正当性を主張する正妻ヘラに感情移入してしまう人もいるかもしれません。人生の夕暮れどきにさしかかり、変革の知恵を持つ老女神、ヘカテの力が欲しいと望む人も。ここで月が教えてくれることは、女性の異なる側面のすべてが、敬うべき貴重なものであるということです。人生のどの段階にあっても、月は女性の味方だからです。

どの女性の中にも様々な女神がいる

 また女神にまつわる様々なストーリーは、女性が人生で出会う喜びや感動、悲しみや絶望などを象徴しています。心理学のある分野では、どの女性の中にも様々な女神がいると考え、あなたの中の女神を活性化することで、人生の危機を乗り越え、自分が取るべき新しい道や新しいものの考え方、成長の方法を模索しようとします。

 たとえば愛情表現が苦手で、パートナーを楽しませることが出来ない人は、あなたの中に眠る愛と美の女神、アフロディーテを意識し、もっと魅力的な恋人になれるよう、その性質を活性化させる必要があります。子供を生む決断ができない人は、大地の女神、デーメテールの“母性”や“人を育む力”を、あなたの中で輝かせることです。男性に振り回されないクールな女になりたいと願うのなら、あなたの中に宿る都市の守護神、知恵と策略の女神、アテナをもっと強く意識するべきです。社会的にも認められるちゃんとした結婚がしたい人は、結婚、契約の女神、ヘラを目覚めさせることです。

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2014.07.01(火)
文=岡本翔子
撮影=橋本篤
写真=オーロラグラン