令和は「鏡よ鏡」の時代?
アルバムに入っている楽曲は、私の大好物な、ほの暗い曲も多かったが、心の埃がそよ風でお掃除されるような爽やかな曲もある。マザーグースのような言葉遊びが入った曲もあり、秘密の呪文を手に入れたような嬉しさも感じたものだ。
そうするうちに、これまで「重いよ~面倒だよ~」とヒーヒー持て余していた超ヘビー級自意識が、実は、簡単に他人に踏み入れられない、自分だけの王国――。そんな風に思えるようになってきたのである。
ぬおおお! 2025年の最後に、こじらせまくっていた若い日々を振り返ってしまった(汗)。いや、これもいい。これも年の越し方の一つだ。
それに、ちょっと思うのだ。令和は、時代そのものが自意識過剰、独り相撲ではないか。世の中、他人や外の世界に気持ちがいくのではなく、心の内へ、内へと深まる傾向強め。Creepy Nutsのお二人も世界中で大ヒットした『Bling-Bang-Bang-Born』でこう歌っていたではないか。「鏡よ鏡答えちゃって」と。
鏡よ鏡。ねえねえ私! と自分に問いかけまくる。これは今や「こじらせ」ではなく、ブームの最先端なのではないかーッ!
ということで、私の自意識過剰も少々マシになった程度で、考えすぎの独り相撲は継続中だ。
自分も同じタイプだぞという方、ぜひぜひウィキペディアでもいいので、谷山浩子さんのディスコグラフィーへレッツゴーしてみてほしい。「お昼寝宮・お散歩宮」「漂流楽団」「アトカタモナイノ国」「悲しみの時計少女」など、魅力的なタイトルがズラリ。そのなかに、やけに心にしっくりきて、目が離せない言葉があれば、それがあなたの王国の扉を開ける暗号だ。ガチャリ!
手塚治虫の「火の鳥」が舞う! 「フェニックスで弾き語り」
谷山浩子さんはなんと今年で53周年。大大大ベテランである。ただ、デビューが15歳とすごく早い。じゅじゅ15歳!! 作詞作曲家を目指し、中学校時代からキングレコードに曲の持ち込みを始めたというからびっくりだ。そしてシンガーソングライターとしてデビューする前の1970年に、後のフィンガー5となるベイビー・ブラザーズのシングル「白い天使」のB面曲に「僕たちの秘密」が採用されている。SNSとかない時代でこのスタートダッシュ(汗)。すごい行動力と、すごい才能だ。
そして現在も彼女はチャレンジャーなまま。発売中のセルフカバーアルバム「フェニックスで弾き語り」も、録音前のウォーミングアップも録音の様子もスタッフとのやり取りもすべてさらけ出す「ピアノ弾き語り公開レコーディング」という、とんでもなくハードルの高い試みで作られた1枚である。
「フェニックスで弾き語り」は、手塚治虫さんの名作「火の鳥」がインパクト大の、真っ赤なジャケットに包まれている。しかも再生を押せば、翼を広げた火の鳥とシンクロするように、名曲「翼になれ」が始まるのだ。
それはすごい静かな迫力。どんな重い心の扉もギギギと開く。開いてしまう。
「手塚治虫さんのマンガで育ってきた」という谷山浩子さん。彼女の楽曲はしっかりとそのエキスを吸い込み、とてつもなく美しく、時にユーモラス、同時にヒリリと残酷だ。破壊、滅亡を想像させるものも多い。
それを聴くたびに、心のなかにあるたくさんの世界がパッと消え、また生まれ、増えていく。あかりが灯るように。
おかげで何度もよみがえることができる。そうして、ややこしい考え方しかできない自分にも、不思議なほどホッとする。
ホッとして泣けてきて、音楽ってすごいなあ、と思うのである。
Column
田中稲の勝手に再ブーム
80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。











