新幹線で降りてきた「アポロ」と、膨大な取材
――物語は1969年、アポロが月面着陸した年からはじまります。この時代設定は、どのように決まったのでしょうか。
大島:それはもう、最初の1行目が「アポロ」で降りてきたから(笑)。取材を進めている途中の新幹線の中で、急にタイトルが『うまれたての星』だって思って、その直後、冒頭のシーンがバーッと浮かんできたんです。あの辺りの文章がスルスルっと出てきちゃったので、もうすぐにでも書きたいと興奮したのを覚えています。
――執筆にあたっては、膨大な取材をされたとうかがいました。
大島:本当にたくさんの方にお話をうかがいました。漫画家さんはもちろん、当時の編集者の方々、それから製版所の方、カメラマンだった方、漫画家さんのごきょうだいなど、思いつく限りの関係者を辿って、同じ方に何度もお願いすることもありましたね。ただ、コロナ禍と重なってしまったのと、皆さまご高齢なので、なかなか簡単にはいかなくて。対面でお会いできずに電話になったり、急に体調を崩されて中止になったり。時間をかけて、丁寧にお願いしながら進めていきました。
――作中に登場する小柳編集長のモデルになった方にもお会いになったとか。
大島:「別冊マーガレット」を100万部超えの雑誌に押し上げ、たくさんの人気漫画家を育てた伝説の編集者・小長井信昌さんですね。最初は体調を崩されていて、1年ほど経ってから、改めてお願いしてお会いすることができました。聞きたいことが多すぎましたし、とても全部をうかがうことは難しかったのですが、奥さまとお嬢さまが補足する形でいろいろなお話をしてくださいました。
実は、連載の最終回のゲラ(校正紙)を編集担当の方にファックスした、まさにその日、小長井さんが亡くなられたんです。本をお渡しすることは間に合いませんでしたが、お葬式などが一段落した頃、最終回が載った雑誌をお嬢さまにお送りしました。そうしたら、「自分のお父さんがこういう仕事をしていたんだとしたら、すごく良かったなと思えました」と言ってくださって、本当に書きあげてよかったと思いました。
