「がんばってきたのに報われない」「がんばり方がわからない」――。そんな人たちに送る、ジェーン・スーさん初のしごと連載。『週刊文春WOMAN2025秋号』より一部を抜粋・掲載します。

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仕事を続けるうちに言われるようになった、「あなただから」
ジェーン・スーというペンネームで仕事を始めてから16年も経ってしまった。子どもの頃にはよくわからなかった「光陰矢の如し」が、身に染みて理解できる。
いまとなってはエッセイやコラムを執筆したり、ラジオやポッドキャストでしゃべったりするのが主な生業だが、世に出始めた頃、私は「よくわからない人」だった。いまだって、ラジオや読書に縁がない人には存在さえ知られていない。
容姿や若さや高学歴や資格といったわかりやすいアピールポイントのない外国人風の名前を持つ女。そんな私がしゃべったり書いたりするのを、おもしろがってくれる人たちが最初から存在していたのはありがたいことだ。なにをしてきたのかよくわからない人だったから聞いてもらえた話や、読んでもらえた文章が多くあったと思う。無名のブロガーみたいなものだったから。
誠実に仕事を続けていると、やがて「それはあなただからできたんだ」と言われるようになった。近頃、よく耳にする言葉だ。
生存バイアスだと言われることもある。成功例だけに注目し、失敗例を無視している状態を指す言葉。そこから派生して、恵まれた機会や環境、持ち前の才能を加味せずに語られても説得力がないという意味でもある。
「あなただからできた」の「あなた」は、いったい何を指すのだろう。容姿や若さや高学歴や資格のひとつも持ち合わせていない自覚があっただけに、やや面食らった。
人それぞれ背景は千差万別であり、うまくスタートを切るために有利な条件というものはある。その条件を、私がいくつか手にしていたであろうことも認める。しかし、「あなただから」と言われると、やはり首をかしげてしまう。35歳までは会社員だったし、最初からこうだったわけではないからだ。
2025.10.01(水)
文=ジェーン・スー