80年代の女子プロレスブームを牽引したダンプ松本とクラッシュ・ギャルズら選手たちの群像を描くNetflixシリーズ「極悪女王」の配信が始まった。本作にはプロレススーパーバイザーとして、長与千種が参加。ブームの一翼を担った張本人は、当時を振り返りながらどんなことを思うのだろうか。近年プロレスファンであることを公言したジェーン・スーが、その胸の内を聞いた。

『週刊文春WOMAN2024秋号』より一部を抜粋・編集し掲載する。


俳優をプロレスラーにすることはできるのか?

スー 私は73年生まれなので、ドンズバのクラッシュ・ギャルズ世代です。あの頃はテレビの中にいる悪徳レフェリーの阿部四郎に向かって、本気で「むかつく~!」と泣き叫んでいました。

長与 ありがとうございます。

スー 当時は生の試合を観に行ったことがなくて、実はプロレスにハマり始めたのはコロナ禍後半から。あの頃は興行が少なかったので、YouTubeが入口でした。

 それからずっとガンバレ☆プロレス(所属選手の多くが兼業レスラーのインディープロレス団体)が好きで、この3年はほぼ全通(すべての大会を観戦すること)しています。並行して王道も観ておいたほうがよいと思い、新日本プロレスなど大きな団体の大会も観に行ったりしました。

長与 ガンプロはファミリー感が満載ですよね。

スー はい、みんな個性的です。

長与 きっとスーさんの琴線に触れるのは、みんなで何とかしようと努力している姿勢なんでしょうね。私が設立した団体Marvelousもそこは共通すると思います。本作では私を始め、Marvelousの選手が一丸となってプロレス指導に当たりました。でも、最初ははたして短期間で俳優さんをプロレスラーにすることができるのか? と不安で。

スー そうですよね。

長与 Marvelousにも18歳の練習生が2人いるんですけど、その子たちもプロテストを受けられるところまでに1年近くかかっているんです。そこで、当時の自分たちを振り返ってみたんですが、あの頃は「見て盗め」が当たり前で、誰も教えてくれないままプロテストに挑んでいました。

 だとしたら、今みたいに細かく手取り足取り教えるのではなく、当時のような環境に戻した方が今回の撮影には適しているのではないかと思い、必要最低限の要点だけを徹底的に叩き込む方法に。すると俳優の方々はみるみる上達し、恐ろしいほど力を発揮してくれたんです。

スー ゆりやんレトリィバァさん、唐田えりかさん、剛力彩芽さん始め、他のレスラー役の俳優のみなさんも全員、本当に素晴らしい表現力でした。受け身って一般の方が取れるようになるまでどれくらい練習が必要なんですか?

2024.09.26(木)
文=綿貫大介
写真=平松市聖
ヘアメイク(スー)=藤原リカ(ThreePEACE)