コラムニストでラジオパーソナリティのジェーン・スーさん。CREAに連載していたエッセイをまとめた単行本『ひとまず上出来』(文藝春秋)が発売され、評判も上々だ。

 スーさんは、今やすっかり人生相談の名手。生放送のラジオ番組「ジェーン・スー生活は踊る」(TBSラジオ/月~木曜)の名物コーナー「相談は踊る」の相談回答は2,000件を超え、雑誌でも新聞でも、人生相談の連載コラムを持っている。

 明晰にまず問題の枠組みを俯瞰して、悩みをかたちづくる要因を分解する。そして明確な力強いアドバイス。生きていく中で発生するモヤモヤの正体を考え、解きほぐすスーさんの「ものの見方」は、このエッセイ集でも存分に発揮されている。


もう皮肉とか叱咤激励とか聞きたくないよな、と

――ジェーン・スーさんの新刊『ひとまず上出来』は、雑誌CREAでの連載エッセイ「●●と▲▲と私」、2016年から2020年まで約4年半分をまとめたもの。『ひとまず上出来』、私たちを全肯定してもらえるような、いいタイトルですね。キャッチコピーの「明けない夜はないはずだ。」にも安心します。

 他のタイトルも考えてたんですけど、コロナを2年やって、みんな疲れちゃってる。もう皮肉とか叱咤激励とか聞きたくないよな、私も、と。とりあえずここまででOKでしょう! というタイトルです。

――スーさんは2021年の遅い夏休みをほとんど費やして、この単行本の加筆修正をされたんですよね。たとえば、Pokémon GOの話題は、雑誌掲載時は流行真っ最中の話だったのが、単行本ではブームを回顧する形になっていました。こういう時事的なもの以外は、どんな基準で直したんですか?

 読み返してみて、私の思い込みが強かったなということが意外とあったので、それは直しました。あと、2016年ならみんなが笑えたような範疇でも、これ、いま言ったら、きついな、配慮がないなと思われそうな表現は直しました。文章の賞味期限って、3年で切れるんだなとショックでしたね。2019年末に『婦人公論』の連載を単行本(『これでもいいのだ』/中央公論新社)にまとめた時よりも変化を大きく感じたので、やっぱりコロナが影響してるんでしょうね。コロナでみんな疲れてきちゃって空気が変わっているというのがある。

――多様性とかポリティカルコレクトネスの変化というわけではなく?

 それもあるけど、それよりも“当たり”かな。当たりが固いか、やわらかいか。良いか悪いかは別として、ちょっとキツい物言いをして「ですよね、ゲラゲラ」って笑うのは、もう受け入れられなくなった感じがします。また時代が元気になったら戻るのかもしれないけど。

――それはコロナで実際に弱ったり傷ついたりした人が多いからでしょうか。

 それもありますし、ムードとして、どぎつい冗談みたいなものが好まれなくなってきているのかなとは思います。

――その変化、書くお仕事だけでなくラジオのお仕事でも感じますか?

 ラジオは逆に毎日やってるからわからないんですよ。毎日微妙に変化していくんで、わからない。まとめて何年も前のものを聴き返すということもないし。雑誌も毎月連載で書いている時点ではわからないんですが、単行本化のために加筆修正する時、読み返してギョッとするという。

2022.02.22(火)
文=CREA編集部
撮影=深野未希