尊敬できる人たちの働き方を観察してみた
働き始めてから30年。尊敬できる仕事人たちの働き方をつぶさに観察すると、共通点があることがわかってきた。言うなれば、「あなただから」の輪郭が少しずつ見えてきた。それぞれがさまざまなバックグラウンドを持っているにもかかわらず、やはりそこには重なり合うところがある。
最初からできた人ばかりではない。つまり、後天的に身に付けることができる可能性が高い要素があるということだ。獲得するまでの時間や労力は一定ではないが、入手することが完全に不可能なわけでもない。
インスタグラムのストーリーズでは、月に一度フォロワーの質問に答える日を作っている。仕事の悩み相談も多く、考え方を変えたら楽になるのに……と歯がゆくなることも少なくない。働くことがつらいのは、仕事に対する考え方の初期設定が私とは異なるからかもしれないと思うようになった。
そろそろ、思うところを書いてもいいのかもしれない。そう思って、断り続けていた、仕事に関する連載を引き受けることにした。 これが唯一の正解ではないが、ひとつのやり方だと思ってもらえたらありがたい。

35歳会社員の私が、ジェーン・スーになるまで
まずは、仕事歴から始めよう。私は仕事が好きで、仕事中心の生活を送っている。年末になると、来年こそペース配分が必要だと振り返り、年が明けると喉元過ぎれば熱さを忘れるように、性懲りもなくまた働いている。仕事の精度を上げる努力はするが、仕事を得るための苦労はしていない。仕事が好きなのは、仕事が楽しいからだ。夢も目標もない。やりたくないことだけは、ハッキリしている。
35歳までは会社員だった。新卒でレコード会社に入社し、28歳で同業他社に転職。31歳で辞め、半年ほど無職生活を堪能したあと眼鏡業界に転職し、35歳まで勤めた。どの会社でも一生懸命に働いた。お給料をもらうというのは、そういうことだと馬鹿正直に考えていたからだ。たまにサボったが、恒常的に手を抜いた覚えはない。
一生懸命に働いてはいたものの、不満は常にあった。誰もわかってくれないとか、私ばっかりと思いながら働いていた。仕事とはなにか、がわかっていなかったのだ。
35歳からは小さな家業を継承した。それだけでは食べていけなかったので、1社目の元同僚が独立して作った音楽制作会社で、誘われるままアルバイトのようなことを始めた。資料を作成したり、企画アイディアを出したりする仕事。リモートでできる上、音楽業界での経験がそのまま活かせる業務だったので、副業としては最高だった。
本業の家業では、売上から諸経費を差っ引いたら収入はほとんどなく、実家住まいとはいえ貯金を切り崩して生活していた。
2025.10.01(水)
文=ジェーン・スー