「作詞をしてみない?」と突然言われ…誕生したマイルール

 さて、楽曲である。元同僚が立ち上げたのは音楽制作会社だったので、高品質な作品を作るスタッフは大勢いた。しかし、元同僚だった社長は私にこう言った。「作詞をしてみない?」と。作詞なんてしたことがない。したいと思ったこともない。それはさすがに無理じゃないか? と躊躇していると、「できるからやってみて。替え歌みたいな感覚でいいから。もちろん、困ったときは手伝うから」と社長はニコニコしている。まあ、社長がそういうなら……と、右も左もわからぬまま私は作詞を引き受けた。

 実は、ここも大きな分岐点だった。「信用できる相手が思いもよらぬ提案をしてきたら、やりたいと思ったことがないことでも乗っかる」のマイルール誕生である。いまでは稼ぎの多くを占める「しゃべる仕事」だが、これもやりたいと思ったことは一度もなかった。

 デモ音源をもらい、デビューする二人の女子高生にインタビューを行った。作詞は初めてだったのと、歌詞の内容が本人たちからかけ離れているものは作りたくなかったからだ。

 振り返れば、ここにもマイルールが存在する。わからないときは調べる、聞く、話す。とにかく動く。空から歌詞が降ってくるタイプの作詞家も確かにいるが、私にはその手のクリエイティビティはない。部屋で膝を抱えて悩んでもなにも出てこないことはわかっているので、手間を惜しまずに動いて集める。すると、大きな山のなかから欲しかったものが見つかるのだ。効率は度外視したほうが納得のいくものに巡り合える。

※ラジオパーソナリティーの仕事を始めた経緯、働き続けて見つけた仕事における「テーマ」などについて記した記事全文は、『週刊文春WOMAN2025秋号』で読むことができます。

Jane Su
1973年東京都生まれ。コラムニスト、ラジオパーソナリティー。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」、ポッドキャスト番組「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」のMCを務める。著書に『介護未満の父に起きたこと』『ひとまず上出来』など。

イラスト:kedamasugoine

2025.10.01(水)
文=ジェーン・スー