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 閉店後の「代官山 蔦屋書店」で開催された、真夏の特別企画「蔦夜書店 ~怪異な夜~」。いま話題の怪談界のキーパーソンが集結し、選ばれし観客の前で世にも恐ろしいスペシャルトークを繰り広げたのですが、じつはイベント中にも怪異が起こっていたようで……?

 本企画の立役者である、同店の販促企画リーダーの稲中惇弥さんと、人文コンシェルジュの野村千絵さんに、イベントの舞台裏を聞きました。

【前篇】閉店後の書店が恐怖の舞台に⋯⋯深夜の代官山で開催された【蔦夜書店~怪異な夜~】で、この世ならざるものに触れた一夜


深夜営業の復活を望む声に後押しされて

――「蔦夜書店 ~怪異な夜~」、堪能しました。24時から朝6時までの長時間イベントでしたが、あっという間で。こうした深夜のイベントはこれまでも?

稲中 はい。そもとも当店は2011年のオープン時から夜中の2時まで営業していたんです。それがコロナ禍などを経て22時閉店となったわけですが、本当に多くのお客様から夜遅い時間の営業を復活させてほしいというご意見を頂戴しておりまして。

 2022年12月に、イベント的に深夜2時までの営業を復活させた(「All Night Owl Fes」)が最初です。お客様には本を自由に楽しんでいただきつつ、DJイベントなども行いました。

野村 一夜限りのコンシェルジュとして、都築響一さん(写真家・編集者)、牧野圭太さん(南房企画)、若林 恵さん(編集者)をお招きし、シェアラウンジの3つの小部屋に1人ずつ座っていただいて、少人数のお客様の前で、おすすめの本から、夜の楽しみ方などをお話いただく催しもありましたよね。これが「蔦“夜”書店」の原型に。

――贅沢ですね!

稲中 これが大変好評をいただき、毎冬の恒例イベントとなりました。2023年は、コンシェルジュが店内をご案内する「ナイトツアー」や、一人ひとりのお客様におすすめ本を提案する「ブックペアリング」などを行い、ゆっくり読書を楽しんでいただく企画になりました。

 2024年は、ナイトツアーに加え、当店コンシェルジュとビアソムリエの片桐大介さんのトークショーで、ビールと本のペアリングなどについて語ってもらい、実際にビールをご提供して、そのまま読書とビールを楽しんでいただきました。

――昨年までは、「書店」や「読書」を楽しむことがメインだった。ということは、怪談ライブ形式だった今夏の「蔦夜書店」は、イレギュラー的な企画だったわけですね。

稲中 スペシャル版というか、A面B面のB面というか(笑)。違った色もお見せしたいということで。当店ではほぼ毎月、いずれかのコンシェルジュが主導するイベントを行っていますが(※コンシェルジュ=人文、建築、アート、旅行、料理、文学など特定のジャンルに精通した専門スタッフのこと)、そうした取り組みをより多くのお客様に知ってほしいということがひとつ。

 そこから派生してより面白いイベントが増えていけばいいなという思いもありました。今回は初めて夏に開催する「蔦夜書店」ということで、いま勢いのある怪談、オカルト、ホラーをフィーチャーしてみたいと、サブカルに強い人文コンシェルジュである野村さんに相談しました。

2025.10.09(木)
文=伊藤由起
写真=志水 隆