男性の避妊手術「精管結紮術(せいかんけっさつじゅつ)」(パイプカット)。日本では情報が乏しく、語られるときは揶揄や好奇心が先立ちがちです。

 そんな現実を当事者の視点から綴ったのが、荻上チキさんのウェブ連載「管を断つ」。ユーモアを交えた記録と考察は個人の体験を超え、性や生殖をめぐる社会の姿を浮かび上がらせています。


自問自答の結果、パイプカットを選択

――精管結紮術を受けた経緯について、改めて聞かせてください。

荻上 私はすでにふたりの子どもがいて、かつ離婚してからだいぶ時間が経っています。自分としては「新たに自分の子を持ちたい」とか「もう一度子育てをしたい」という願望はなかった。

 そのため、予期せぬ妊娠は回避したいという思いから、手術に踏み切りました。精管結紮術については、若い頃から知識そのものはあったので特に躊躇はなく、あとはいつ・どこで手術を受けるかという問題でした。

――具体的なクリニック探しなどの情報収集はどのように?

荻上 多忙で、日常の中で使える時間が限られていたので、場所的に通いやすく、術後の精子検査の結果を郵送してくれる、費用が中程度のクリニックを探しました。自由診療なので費用には5~30万円くらいの幅があるんです。

 SNSにあがっている体験談やクリニックのウェブサイトにある説明を読み比べ、手術の流れや実務的な詳細、設備の様子などを把握しました。ただ、私のクリニック選びは、なかなかの「失敗」で、傷口が何度も開いたりするなど、てんやわんや。もう少しクリニックの評判を調べればよかったなとは思っています。

2025.09.09(火)
文=伊藤由起
写真=平松市聖

CREA 2025年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

「誰にも聞けない、からだと性の話。」

CREA 2025年秋号

「誰にも聞けない、からだと性の話。」

定価980円