手術自体は成功したもののクリニック選びは「失敗」

――その“てんやわんや”が「管を断つ」の読みどころでもあるわけですが……特にしんどかったのは、どんなことでしたか?

荻上 精管結紮術を行うクリニックがすべてそうだとは思わないでほしいのですが――とにかく対応が雑、院内が不衛生など、問題はいろいろと。それは手術当日だけのことではありませんでした。

 手術の数日後、傷口を縫合した糸がほどけて出血したんです。翌日クリニックに行き、有料で再縫合してもらったのですが、再度、糸がほつれてまたクリニックへ。前回も対応が親切とは言えませんでしたが、その時の医師の対応が、かなり乱暴だったんです。終始イライラした態度で、患者へのいたわりや配慮は皆無。それが非常に嫌でしたね。

 ただ、ある種の人にとっては、説明や確認といった面倒な手順を省き、手早くリーズナブルに、パパッと日帰りで手術してくれるクリニック、という意味で需要があるようでした。

 とはいえこの体験記は、手術へのネガティブキャンペーンになってほしくないなと思います。医療リスクもあるという当たり前のことを開示しながら、実態を知ってほしい、改善されてほしいという気持ちがあります。

――荻上さんの周囲に、精管結紮術を経験した男性はいるのでしょうか。

荻上 知る限りではいません。そもそも男性同士でそういった踏み込んだ話をする機会自体、ほとんどないんです。ただ、「管を断つ」の読者から「自分も手術を受けました」「連載を読んで決断しました」といったメールをいただくことはありました。「いつかやろうかな」と考えている人は、意外と多いのではないかと思います。あとは、実行に踏み切る強い動機づけと、機会があるかどうかです。

――荻上さんには両方があった。

荻上 そうですね。仮に今後、パートナーが見つかったとしても、ライフステージや将来像についてきちんと話し合う必要があると思っています。手術は自分にとって、その決意のようなものでした。

2025.09.09(火)
文=伊藤由起
写真=平松市聖

CREA 2025年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

「誰にも聞けない、からだと性の話。」

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定価980円