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スペシャリストではないからこそできること

――稲中さんのこれまでについてもぜひ、教えてください。

稲中 僕はそんなに変わった経歴があるわけじゃないんですけど(笑)。代官山に来て3年目、入社5年目になります。最初は大阪の郊外の、DVDのレンタルも取り扱っている「TSUTAYA」からスタートしました。書店員として本や雑貨を扱ったりしつつ、大阪で最初にシェアラウンジを設けた店舗だったので、そのマーケティングのようなことも。

 2年目に福岡の空港にある店舗で店長として働き、お店の運営についてはひと通りのことを経験させてもらいました。以後は、本来やりたかったこと――ただモノを売るだけでなく、“体験”を提供できる人になりたいと思い、現在のチームに参画してイベント企画などに携わっています。

――これまでに手掛けた企画のなかで、代表的なものというと?

稲中 「DIGGIN DEEP」ですね(2024年、25年の3月に開催)。レコードや古着、ファッション雑貨、フードを扱うショップが一堂に会する屋外マーケットイベントですかね。昨年は全国から約30店に参加してもらい、バンドやDJのライブも開催しました。

 代官山に根付いていた古着や音楽といったカルチャーを、改めて深堀りできる場所を作りましょうという企画で、社内外で嬉しい声をいただいています。僕自身は、何らかのカルチャーに深く傾倒してきた人間ではないので、そういった人たちと一緒に何かをやりたいという思いはむしろ強いほうだと思います。その都度、スペシャリストであるコンシェルジュの方と組んで、場づくりをするのが僕の仕事という感じですね。

――野村さんは今回、稲中さんと組んでみていかがでしたか。

野村 一から一緒に、会議を重ねてひとつのイベントを作っていくという経験は初めてでしたが、抜群のサポートでとてもやりやすかったです。トークイベントのMCとしても安定の進行で。

――苦労した部分はありましたか?

稲中 これまでにない試みでもあり、「いかにお客様に怖がっていただけるか」という場の作り方や、出演者の皆さんにどう話してもらえばいいかといったノウハウがほぼゼロべ―スのところから作り上げていくというのは、大変といえば大変だったと思います。

 ただ、空間と怪談がマッチしたときのゾワッとする感じは、たまらないものがありました。みんなで頑張ってきてよかったと思った瞬間ですね。

――本好きとしても今後の企画も楽しみにしています。

稲中 年末に向けて楽しいイベントをたくさん用意しておりますので、ぜひ遊びに来てください。

野村 お待ちしています!

【前篇】閉店後の書店が恐怖の舞台に⋯⋯深夜の代官山で開催された【蔦夜書店~怪異な夜~】で、この世ならざるものに触れた一夜

代官山 蔦屋書店

所在地 東京都渋谷区猿楽町17-5
電話番号 03-3770-2525
営業時間 フロアにより異なる。詳しくはウェブサイトへ。
https://store.tsite.jp/daikanyama/

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2025.10.09(木)
文=伊藤由起
写真=志水 隆