怪談&オカルト研究家・吉田悠軌さんによる編著『よみがえる「学校の怪談」』(集英社)は、誰もが一度は耳にしたことのある“学校の怖い話”を多角的に読み解く論考集です。

 トイレの花子さん、夜な夜な動き出す人体模型、秘密の地下室や開かずの扉――それらは今も子どもたちの間で語り継がれているのでしょうか。「学校の怪談」の変遷と今について、吉田さんに聞きました。


フリー素材と化した「学校の怪談」

――吉田さんは、1990年代に巻き起こった「学校の怪談」の大ブームをどのように捉えていますか。

 学校で語られる怖い話、あるいは学校を舞台にした怪談は明治のころからあり、「学校の七不思議」などと呼ばれ代々語り継がれてきた。それが「学校の怪談」という枠組み、ジャンルとして定着したのが1990年代ということになろうかと思います。

 講談社版『学校の怪談』シリーズとポプラ社版『学校の怪談』シリーズをはじめとする書籍、映画、アニメ、コミック、ゲームなどが商業的に大成功を収めたことにより、かつてはそれぞれの学校の中だけで語られていた怪談が、広く認知されるようになりました。

――それまではローカルだった怪談が、一気に全国版になったような感じですね。

 2000年代に入るころにブームは失速しますが、「学校の怪談」というコンテンツ自体は、ずっと生き残ってきた。それが近年では、さまざまなオカルト・ホラー的なコンテンツ、特にマンガやアニメに「フリー素材」として使われるようになっています。例えば『ダンダダン』、『地縛少年花子くん』のように。

――『ダンダダン』(作・龍幸伸)には、さまざまな都市伝説、宇宙人、怪獣などに加え、「学校の七不思議」のひとつとしてポピュラーな“動く人体模型”が登場しますね。『地縛少年花子くん』(作・あいだいろ)の主役の原型は“トイレの花子さん”。いずれもアニメ化され大人気です。

 「学校の怪談」に登場するモチーフやキャラクター、設定などを引っ張ってきて、組み合わせたり、バトルさせたり。非常に扱いやすいコンテンツになったという意味で、「学校の怪談」は新しいフェーズに入ったとも言える。

 もしかしたら90年代以上に広く知られ、語られるようになっているのかもしれませんが、「学校の怪談」として語られているとは限らないという、ちょっといびつな状態になっています。では実際、子どもたちのいる学校ではどうなっているのか。一度立ち止まって考えてみるには、今がちょうどいいタイミングなんじゃないかと。

2025.08.07(木)
文=伊藤由起
写真=佐藤 亘