地域や時代の色を映し出す「学校の怪談」

――吉田さんは1980年生まれですから、「学校の怪談」ブームのころはギリギリ小学生ということになるでしょうか?

 講談社版『学校の怪談』第1巻の初版は1990年で、学校図書として入って来たのはもう少し後になります。そのころには小学校を卒業していたので、ギリギリ間に合わなかった世代ですね。

 ですがその少し前、80年代後半にコミック雑誌『ハロウィン』(85年創刊/朝日ソノラマ)や、その単行本や増刊誌である『ほんとにあった怖い話』に、読者投稿として、今で言う「学校の怪談」が掲載されていました。

 私は姉がいたこともあって、小学生男子ながらそれを熱心に読んでいました。そのほか、つのだじろうさんの『ハイスクールミステリー 学園七不思議』といったテレビアニメも見ていました。

 『ポンキッキーズ』内のコーナーとして放送された『学校のコワイうわさ 花子さんがきた!!』の放送はそのあとで、私はすでに中学生になっていたので、大人になってから後追いで見ました。

――学校で実際に聞いたり語ったりした怪談は?

 「トイレの花子さん」の話は、わが校にもありました。ただ、少し古い怪談として「3番目のトイレをノックすると花子さんが出てくるという話は定番だよね」とわかったうえで話している感じでしたが。

――じつは私たち(筆者と編集担当M)、子どものころに「花子さん」の話を聞いた覚えがないんです。私は、1980年前後に沖縄の離島の小学校に通ったのですが、そこにはまだ離れの汲み取り式トイレがあり、「3番目のトイレに幽霊がいる」という噂がありました。

――(編集M):私は関東の公立校ですが、歴史の古い学校だったせいか、学校の由来に関係する独自の怪談が語り継がれていました。だから花子さんが入ってくる余地がなかったのかもしれません。

 学校そのものはもちろん、地域や時代の特色をも映し出しているのが「学校の怪談」の面白いところですよね。離島には古い話が残っているケースも多い。トイレの花子さんは少なくとも戦後すぐのころからある話ですが、資料に「花子」の名前が多く出るようになったのは80年代以降と遅く、いつから花子さんという名称になったのか、判然としないんです。

 でも、トイレに女の子の霊が出るという話はかなり昔からあり、汲み取り式の時代は、トイレから手が出てくるという怪談が多かった。

2025.08.07(木)
文=伊藤由起
写真=佐藤 亘