そもそも「学校の怪談」の定義って?

――ひとつのジャンルとして確立された「学校の怪談」ですが、その定義も変質しているのでしょうか。そもそも「学校の怪談」の定義って……?
そこですよね。90年代の大ブームのころから現在に至るまで、定義が曖昧なままずっと来ていると思います。定義が明確だったのは、ブーム前からある“学校の七不思議”まででしょう。
講談社版『学校の怪談』シリーズの著者であり民俗学者の常光徹さんが「学校の怪談」というものに注目しはじめたころは、少なくともそうでした。子どもたちを語り部とする「学校=わが校の怪談」という明確な定義があった。
それが、『学校の怪談』という本がシリーズ化され、もっともっと収集しなければ、となってくるなかで、特定の学校の話ではなく、全国的に流布しているような話も「学校の怪談」とされるようになってくる。
また、その学校で起こっている話として語られてはいるけれど、実はいろいろな地域で語られている話だったことが、「学校の怪談」が広く認識されるようになったことでわかってくるわけです。
――「トイレの花子さん」って、うちの学校だけの話じゃなかったのか! という。
そうした発見の面白さが、「学校の怪談」ブームを加速させた理由のひとつでもあったのだろうと思います。

――「学校の怪談」が都市伝説に回収されたということでしょうか。
そうですね。都市伝説という上位概念の、怪談ジャンルのひとつとして、「学校の怪談」が位置づけられた。
ブーム以前の「学校の七不思議」というのは、歴史的に縦軸で語り継がれてきた話で、話数も限定的です。7つくらいの話が、子どもたちが卒業し入れ替わっても、新しい子どもたちによって、伝統文化のように語られてきた。
一方「学校の怪談」ブーム下では、第2段階として、子どもたちがメディアや他校の生徒から仕入れたネタを学校で話し、広めるというフィードバックが起こりました。そうなってくると「学校の怪談」の定義は、「学校」という社会的空間で「子どもたち」が語る怖い・謎めいた話という風になっていく。
――語られる場所と人だけが限定され、内容にはいろいろなものが混ざっていく。
講談社版『学校の怪談』第2巻のあとがきには、“学校とは怪談の「集散地」”なのだとあります。塾など学校の外で聞いた怪談を子どもたちが持ち寄って共有、拡散させていく場が学校なんだと。それを踏まえて集められたのが90年代の「学校の怪談」だったというわけです。
ただ、そのあと、インターネットが登場したことにより、状況は変わっていきます。
2025.08.07(木)
文=伊藤由起
写真=佐藤 亘