
社会保険労務士(社労士)とは、社会保険と労務管理のスペシャリストのこと。申請書類をクライアントに代わって作成・届出し、労務管理の相談や指導を行う仕事だ。そんな社労士を主人公にした異色のマンガが話題になっている。
『ひよっこ社労士のヒナコ』は、派遣社員から転職した新米社労士のヒナコが、「不当解雇」や「給料未払い」、「ハラスメント」など労務問題をめぐるさまざまな《事件》に挑む、お仕事マンガだ。8月18日の発売直後に重版が決定、元Mrs. GREEN APPLEでいまは〈社労士兼ドラマー〉として活動されている山中綾華さんも「お手本にしたいマンガ」と絶賛している。
原作者であるミステリー作家の水生大海さんに、作品に込められた思いについてお聞きした──。
労務ミステリーをコミカライズ
──原作の「社労士のヒナコ」シリーズは、1冊目の『ひよっこ社労士のヒナコ』から『きみの正義は』、『希望のカケラ』まで3作が刊行され、新感覚の労務ミステリーとして多くの読者の支持を得ています。今回、コミカライズ版の第1巻が完成しましたが、ご感想はいかがでしょうか?
水生 物語そのものは私が書いたので、自分の感想というのはなかなか難しいのですが、絵がついたことによって、それぞれのキャラクターがどんな感じなのかが読者さんに伝わりやすくなっているのではないかと思いました。
会話のシーンが多く、見せ場となるようなアクションがある小説ではないので、漫画に落とし込むのが大変だったのではないかなとも感じました。学習漫画のようなハウツー形式ではなく、物語として成り立たせながらも説明的にならないように、手際よく漫画へと落とし込んでいただけたと思います。

──漫画化にあたって、原作にあった細かい状況説明などを省略せざるを得ない部分もあったかとも思いましたが、その点に違和感などはありませんでしたか?
水生 文章として書かれたものと、絵として見せるものとでは違うということは理解しておりますので、そこはあまり気にならなかったです。
──物語のストーリーは原作に沿っていますが、キャラクターに関してはいかがでしょうか? 特に主人公のヒナコについてはどう思われましたか?
水生 ヒナコに関しては、原作よりは幼い感じがちょっとしますけれど、これから成長していく最初の段階として考えれば、そこまででもないかなと思います。
──ヒナコが勤める「やまだ社労士事務所」には、所長である山田や、妻で税理士の素子、パートで働く丹羽など、個性的なサブキャラクターが登場します。そのあたりはいかがでしたか?
水生 ビジュアル化するとすれば、やはり素子さんはシャキッとした女性、丹羽さんは軽口は叩くけれども仕事はちゃんとするタイプですね。どちらも元々は会社員として働いていた時はかなりできる女性であった、という風に設定しています。
できる女性なんだけれども、いったんマミートラック(※出産・育児を機に、昇進・昇格から外れたキャリアコースに入ること)に乗ってしまい、家庭に入って子育てと両立するとなると働き方が難しくなる。これは、私が原作に込めているテーマです。それを体現したキャラクターとしては、あのような絵になるのかなと思います。

──作画を担当された河野別荘地さんについてはいかがでしょうか?
水生 最初に作画候補として見せていただいたのが人魚の絵だったので、メルヘンというかファンタジー系の不思議な世界を描かれる方なのかなと思っていました。
実際に描かれた人物を見た感じでは、書き分けがちゃんとできる方だなと思いました。特に中年の男女は絵でキャラクターを出しづらいと思いますが、それを誇張ではなく、違う人間として描き分けられる。たとえば、企業に勤める男性たちの顔立ちがちゃんと描き分けられているので、混乱なく読めています。安心して見ていられるリアリティのある絵、という感じでしょうか。大変お上手だと思います。
2025.09.23(火)
文=文春コミック