成長していくヒヨッコ社労士
──シリーズを通して、主人公のヒナコも成長していきますが、その点についてはいかがでしょうか。
水生 最初の頃よりは視野を広く持つように、と意識しています。1巻目ではクライアントに要求されて「どうしよう、どうしよう」と考えたりもしていましたが、成長するにしたがって、横柄なクライアントやズルをする従業員に対し、問題点を指摘する際に駆け引きができるようになってきています。
その方が、読んでいる人もストレスが少なくなるんじゃないかなと。あまりにもひよっこのままだと、イライラしちゃうかなと思うので……。
──コロナ禍など、その時々のタイムリーな話題も取り入れられていますね。
水生 それは意識的にやっています。コロナはどう考えても入れないと社会の問題として成り立たなくなりますから。なるべくその時に話題になっているものを入れようとは考えています。その分、最後に本としてまとめる時に困ってしまうのですが……。
──ミステリーの核となるアイデアは、どういうところから得ることが多いですか?
水生 やはり新聞とかニュースでしょうか。そこで自分が気になっている話題や、世間を騒がしている問題を探していきます。このシリーズは社会との関わりが深いので、「今、話題になっているのは何かな」という風に考えて、探します。
──物語の組み立ては、どのようにされているのでしょうか。
水生 ヒナコの場合は、まず「働く上でのテーマ」を決めます。ハラスメント、労働災害、残業時間、育休、就業規則といったテーマです。そして、そのテーマに合う職業は何かな、と考えます。『会社四季報 業界地図』を参考にして、「こんな会社だったら使えるかな」とざっくり考え、そこからストーリーを組み立てていく感じです。

もちろん、そればかりではありません。介護施設の問題を取り上げたい、と考えてそこから話を組み立てることもありますし、コロナ禍で美容院に行った時は、「この人たち、大丈夫なのかしら」と心配になって、そこから話を考えたケースもあります。色々ですね。
──最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
水生 労務問題のミステリーなので、聞き慣れない単語も出てきて、とっつきにくい部分もあるかもしれません。しかし、働くということ、つまり人の暮らしそのものを描いているつもりです。物語は1話完結の短編で、それぞれ違う事案を扱っているので、ご自身やご家族がどこかで遭遇する問題とリンクしてくるかもしれません。
物語そのものは分かりやすく書いているつもりです。現実から離れないように、夢物語にはならないようにと考えているので、少し寂しい終わり方をする回もありますが、希望は決して失わないようにしています。是非読んでみてください。
そして、もし気に入っていただけたら、新入社員さんやアルバイトさんなど、初めて働く方にプレゼントしていただけたら嬉しいです。働く人の味方になれる本でありたい、と思っております。

水生大海(みずき・ひろみ)
作家。三重県生まれ。著書に『ランチ探偵』『熱望』『その嘘を、なかったことには』など多数。「社労士のヒナコ」シリーズとして『ひよっこ社労士のヒナコ』『きみの正義は』『希望のカケラ』がある。


ひよっこ社労士のヒナコ 1 (BUNCOMI)
定価 847円(税込)
文藝春秋
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2025.09.23(火)
文=文春コミック