このドラマは、いわゆる「学園ドラマ」の枠には収まらない独特の雰囲気を持っています。その一筋縄ではいかない作風ゆえに、もしかしたら途中で視聴をやめてしまった人もいるかもしれません。しかし、それはすごくもったいない! なぜなら、この作品の最大の魅力は、他にはないその独特な感性をじっくりと味わうことにあるからです。
この作品が持つ、科学と想像力が入り混じった独特な世界観、ちょっと不思議で独創的な言葉遣い、そして宇宙を思わせる壮大な視点は、同作内でたびたび引用される、宮沢賢治の作品に深く通じるものがあります。宮沢賢治の作品がそうであるように、このドラマもまた、鑑賞し続けることで、一見「よくわからない」と感じるその先に豊かな想像力と不思議な世界が広がっているんです!
青春、星、そして宮沢賢治。蒸し暑い夏の夜に、スーッと清涼感のある風を届けてくれるこれらの要素が見事に共鳴し合い、物語は静かに、でも、しっかりと心に染み込んでいきます。

かつて不登校だった弁護士が、高校に派遣されることに
主人公の白鳥健治(磯村勇斗)は、「宇宙の一部になりたい」という独特の感性を持つ弁護士。周囲と感覚が合わず、マイペースな性格ゆえに集団行動になじめなかったため、不登校になった過去を持っています。
小さな法律事務所で働く健治は、所長の久留島(市川実和子)の指示でスクールロイヤー(学校で起こるいじめや体罰などの問題に対して、法律に基づいて助言や指導を行う弁護士)として「濱ソラリス高校」に週3日、派遣されることに。さらに天文部の部活動指導員も兼任することになります。
そもそも学校のことを「太陽系外宇宙勢力のガイゾックやネオ・アトランティスのような計り知れない悪の組織」と表現するほど大嫌いな健治。そのトラウマを乗り越え、少しずつ変わっていく姿は、本作の大きな見どころの一つです。
主人公自身が人と向き合うことを恐れていることからもわかる通り、本作は完璧な人間や理想的な解決策を提示するのではなく、登場人物それぞれの不器用さや欠点をじっくりと描いてくれています。
だから観ていると「誰もが完璧ではなく、失敗や欠点を持つ存在である」という、当たり前のことにまず気付かされるんです。こうした不完全さを互いに許容し、寄り添っていくことの重要性を描いている点が、理想論に流れがちな従来の学園ドラマとは違い、今っぽさを感じる点でもあります。

青春ドラマのトレンドは文化系の題材へ
本作は、実はちゃんと「夏ドラマ」としても成立しているんです。いわゆる「海!」「青春!」「恋!」みたいな、派手で熱い夏を描くわけではないけれど、たしかに私たちが経験として知っている、一人の時間にふと思い出すような、静かで、じんわり心に残る夏のシーンを切り取っています。
そこでカギになるのが、天文部の存在。かつてのスポ根青春ドラマのトレンドは今、文化系の題材に移りつつあります。なかでも熱いのが、科学・物理、宇宙に目を向けるもの。特に天体のモチーフが今アツいです! 昨年放送の『宙わたる教室』、今夏公開の映画『この夏の星を見る』、そして現在放送中のよるドラ『いつか、無重力の宙で』の流れの中に、本作もあります。
2025.09.22(月)
文=綿貫大介