化学者であるとともにテクノロジー起業家として

 はじめに彼女たちが起こしたアクションがユニークだ。高校生ながら地元の大学教授にアドバイスを求め、プラスチックを分解するバクテリアについての研究を開始。このバクテリアの培養と研究を通して得た概念がのちに廃プラスチックの分子レベルでの再構成技術の開発に着手するきっかけとなる。

 その後、大学での学びを経て、二人は共同でアメリカのシリコンバレーに「Novoloop(ノボループ)」を設立。会社を設立した理由は、循環型社会を実現する新しい技術を前進させ、プラスチックのサプライチェーンを変革・確立するためには、経済的に持続可能な組織を生みだすことが不可欠だと信じていたからだという。ミランダは化学者であるとともに、シリコンバレーに生きるテクノロジー起業家として「社会に還元できるビジネスモデルの実現」という確固たる目標も明確に抱いていたのだ。

 当時、彼女たちは最もリサイクルが難しいとされるポリエチレンと呼ばれる種類のプラスチックを変換する技術の開発に着目していた。というのも、この種のプラスチックこそ私たちの暮らしの中で最も身近なところにあり、最も広く普及しているからだ。例えば、レジ袋やフィルムを使った包装材、洗剤やシャンプーのボトルのような硬い容器など、私たちの日々の生活に欠かせないものばかりだ。

“ライフサイクリング”という新たな価値観

 彼女たちが構築したリサイクルプロセスにおいて最も重要なのは、プラスチック廃棄物を同種のプラスチックに戻すのではなく、革新的な化学的変換技術を用いてその性能を向上させ、別の種類のプラスチックへと変換するということだ。“アップサイクル”することで、より高価で耐久性のあるものに変容させ、画期的な用途に用いてもらうことで、経済的にもより競争力をもつものになり得るのだ。だからこそ、ミランダは、決して自らのビジネスモデルを単なる“リサイクル企業”とは考えていない。

「私たちが生みだすプロセスは、より化学的なアップサイクリングであり、私たち自身がさらなる経済的な競争力をもつための基盤となるものです。私たちはこの技術を『寿命を迎えたプラスチックに新たな命を吹き込む』という意味で独自に“ライフサイクリング”と呼んでおり、技術的には世界中でいくつかの特許も取得しています。それによって、資金調達も継続できるようになり、このテクノロジーをさらに発展・拡大していくことが事業拡大や好循環を生みだしてゆくのです」

 単なるイノベーティブなリサイクルという枠組みを超え、よりよい社会と経済循環への積極的なコミットと革新的テクノロジーの未来を見据え、企業価値の向上と社会貢献をも実現可能な循環経済型のリサイクルシステムの新たなる価値観を生みだしたのだ。

2025.10.03(金)
文=朝岡久美子