最も困難とされるプラスチック廃棄物の再利用

 日本でも2020年にレジ袋有料化が始まって早5年。プラスチックゴミの削減を目的としたこの施策をはじめ、近年、個人の環境問題に対する意識や環境保護に対する貢献への意識や関心もかなり高まりつつあるのではないだろうか。

 しかし、我々の身近なところにあるプラスチック廃棄物について、現実問題は深刻だ。現在、世界中で毎年4億トンのプラスチックが未使用の化石燃料から生産されているのをご存知だろうか。対して、リサイクルされているのは9%にも満たない。増える一方のプラスチック廃棄物は、我々が住む同じ地球上のどこかに、それも我々の想像を超えるはるかに長期的なスパンで眠っているのだ。

 さまざまな製品や資材、食品などが世界中を流通するグローバル経済の中で、私たちはプラスチックという魔法の素材の恩恵からは逃れることができないのは周知のとおりだ。命にかかわる医療分野などにおいてのプラスチック製品の必要性や、また日常における効率性や利便性などという観点からも誰もがそれは認めざるを得ないだろう。業界的にも2050年までにさらに現在の二倍以上の化石燃料由来のプラスチック生産量が見込まれている。

 そんな現代社会が抱えるプラスチック廃棄物問題の悪循環の流れに立ち向かった一人の若き女性起業家がいる。中国系カナダ人のミランダ・ワン。高校時代、偶然にも遭遇したプラスチック廃棄物をめぐる忘れがたい光景は、10代の彼女を大いに奮い立たせ、その後の彼女の人生を決定付けたのだ。

圧縮されたプラスチック廃棄物の山が与えた衝撃

 カナダ・バンクーバーで育ったミランダ・ワンは、高校時代のある日、当時所属していた環境クラブのメンバーたちとともに地元のゴミ圧縮施設に赴いた。そこで、彼女が目の当たりにした光景――それは圧縮されたプラスチックごみの山、山、山。それらはこの後、どこかの埋め立て地へと運び込まれるのを待っていた。

 その時、彼女は自分たちが数分間で消費し、捨てたプラスチックのゴミが地球上のどこかで100年以上にもわたって眠りについているという事実を知り、衝撃を憶えたのだという。その現実は聡明な彼女に現代社会においてのリサイクルプロセスの不十分さという現実と課題を植え付けた。

「私たちが捨てた廃棄物がどういう末路にあるのかということを実際に目にし、これほどまでに謙虚な気持ちになり、物ごとがはっきりと見えてくる瞬間はありませんでした」

 それ以来、同じクラブで親友のジーニー・ヤオとともに、最も難しいといわれるプラスチックゴミのリサイクルについて思いを巡らすようになる。そして、これがのち、スイスの腕時計メーカー、ロレックス社が行っているロレックス賞の受賞(2019年)につながり、世界と人類に貢献する功績を遺す活動として道を切り拓く第一歩ともなったのだ。

2025.10.03(金)
文=朝岡久美子