世界遺産や国立公園に指定され、手つかずの自然が今なお残る知床。そんな地を、飛行機と自動車で東京からわずか3時間半で訪れることができます。とても遠い場所と思い込んでいた知床に「これなら週末でも行ける」と背中を押された気分になり、この夏の終わり、思い切って出かけてきました。

 今回参加したのは「知床国立公園指定60周年」と「世界遺産登録20周年」を記念して開催された特別なイベント。会場は、北海道斜里町と羅臼町。さらに、知床に縁の深いザ・ノース・フェイスを展開するゴールドウインと、スノーピークがタッグを組むという豪華な内容です。

 ゴールドウインにおいては2019年、知床自然センター内に「ザ・ノース・フェイス/ヘリーハンセン 知床店」をオープンし、店舗運営などを通じて町と協力しながらアウトドア振興や環境保全に取り組んできました。その延長として、2021年には斜里町と「地域包括連携協定」を締結。知床の自然を守りつつ魅力を発信し、アウトドア文化の定着、地域経済の活性化を目指しています。

 今回のイベントでもその姿勢が色濃く表れ、イベントのプログラムには知床五湖ハイキングをはじめ、地元の自然素材を活かしたワークショップや、猟師さんから直接学べる「ヒグマとの適切な距離のとり方」など、知床の“リアル”を体感できるアクティビティが用意されていました。


知ることからはじまる。体験型エコツアーin知床

 羽田から女満別空港まで1時間半、女満別空港からさらに車で2時間弱。たどり着いたのは、知床の玄関口・北海道斜里町の「知床自然センター」です。

 昼の気温は25度。空気は澄み、カラッとした過ごしやすい気候。まだまだ夏の熱気が残る東京からわずか3時間半。知床には秋の気配が漂っていました。

 会場ではすでにワークショップがはじまっていました。今回のイベントでは、知床の自然を体感しながら、土地の文化や環境問題に触れられる、さまざまなプログラムが用意されています。

熊笹がアートに変身。見えてきた“ヒグマとの境界線”

 知床自然センターの広大な敷地でまず目に留まったのは、TSUCHI NI KAERU 代表の藤原 タクマさんによる“笹アート”。周辺の笹藪を手入れした際に刈り取った笹を乾燥させ、木の枝を骨組みにして形づくっているのだそう。

 ミノムシのようにぶら下がるかわいらしい見た目をしていますが、そこには「人とヒグマが安心して暮らすための境界線」という深いメッセージが込められているように感じました。

 というのも、知床では「ヒグマと人との距離感」が近年大きなテーマになっているからです。笹が背高く茂るとヒグマの姿が見えにくくなり、境界線が曖昧に。結果として人と野生動物が鉢合わせするリスクが高まってしまうのだそう。だからこそ、笹を定期的に刈り取る作業は欠かせないといいます。

 その副産物から生まれた笹のアートは、単なる造形物ではなく人間とヒグマの距離感を考えるきっかけそのもの……ここでは、ヒグマの存在がいかに身近で、私たちの日常と地続きであるかを改めて思い知らされます。

2025.09.30(火)
文=山畑理絵
撮影=深野未季