語られる「ヒグマとの共生」

斜里町でいくつかのワークショップを体験したあと、隣町の「羅臼オートキャンプ場」へ。時間にして車で約45分、オホーツク海側から根室海峡側へと移動しました。

キャンプ場は、広大な山々に囲まれていました。こんな山の中でヒグマは大丈夫なのか……と心配になってしまいますが、周辺に電気柵を設けることで、人と野生動物の境界線を作っているとのこと。知床ではどこにいても「野生動物」と「人間」の生活が隣合わせであることをひしひしと感じます。



澄んだ空気の中に焚き火の炎が揺れる、知床の夜。日が暮れると気温がぐっと下がり、火を囲んで猟師さんによるヒグマの紙芝居や、直接お話しできる機会がありました。
知床半島は、世界有数のヒグマ密集地。400〜500頭のヒグマが生息していると推定されています。なぜ、知床にはこんなにもヒグマがたくさん暮らしているのか。それは「ヒグマが季節ごとに食べ物を見つけられる場所」だからだといいます。
春は芽吹いたばかりの木の芽や葉、夏はアリなどの昆虫を食べ、秋は川を遡上してきたサケやドングリ、そしてヤマブドウ。こうした季節ごとの豊かな食べ物があるからこそ、知床ではヒグマが高密度で暮らしていけるのだそう。

実際、このイベントの多くの場面で「ヒグマとの共生」を意識することがありました。後述する知床五湖ハイキングでも痛感することになりますが、人がヒグマの生息地──つまり知床に足を踏み入れる以上、遭遇の可能性はゼロにはできません。
だからこそ、食べ物を落とさない、ゴミを捨てない、50m以上の距離を保つといった基本的なルールを守ることが、人とヒグマ双方の安全を守ることにつながるのだと教わりました。

そして、それ以上に大切なのは「ヒグマに出会わないように努める」こと。声を出して歩く、熊鈴を鳴らす、ときにはルートを変える──。こちらからバッタリ会わない努力をする意識こそが、知床で安全に過ごすためのいちばんの心得かもしれません。
すぐそばで野生動物の息遣いが…

時刻は21時。気温は18度まで下がり、フリースを着ていても少し肌寒いほど。キャンプ場を出て宿に向かうため、車で夜道を走っていると、これでもかというほどエゾシカやキタキツネと遭遇! 3分に1回は目にしたんじゃないかというくらい、多くの野生動物が生息していることにびっくり。
筆者は日頃から趣味の登山のため夜の山道を走ることがありますが、ここまで次から次へと野生動物が出てくるのははじめてのこと。ああ、本当に今私は野生動物たちの生活圏にお邪魔しているんだな、そんなことを身をもって感じたのでした——。
2025.09.30(火)
文=山畑理絵
撮影=深野未季