「ピルよりミレーナにしたら?」

それは、出産した産婦人科で、「生理痛がもう一度くるのが嫌すぎるのでピルを飲みたい」と言ったら、「ピルよりミレーナにしたら?」と、お医者さんが勧めてくれたものだった。話によると、ミレーナは子宮に入れておく小さな器具で、経血量を減らし、痛みも和らげてくれて、避妊も出来て、ピルのように毎日薬を飲む必要もなく、なんと最長五年間も使えるという。
仕組みとしては、子宮の中で黄体ホルモンという成分を出すことで、子宮内膜を薄くし、妊娠を防いだり、生理を軽くしてくれるということらしい。普通は、赤ちゃんを迎える準備の為に子宮内膜が厚くなるのだけれど、ミレーナが出す黄体ホルモンは、赤ちゃんを迎える準備をしなくていいよ、という信号を出してくれるのだ。子宮内膜が薄くなると、避妊だけでなく、月経量が少なくなったり、生理痛が減ったりする効果があるのだという。
生理がなくなる、減ることに恐れを感じる人は多いけれど、昔と比べると、現代人は生理の回数が多すぎることも子宮の病気のリスクを高める一因になるとも言われているそうだ。かつては初潮の年齢が今より遅く、さらに三~四人出産するのが一般的だったため、生涯に経験する生理の回数自体が少なかった為だという。
でもね、そんなうまい話があります?
と内心思いつつ、「それにします」と即答していた。子宮に器具を入れると聞いても少しも恐れなかったのは、後から考えればチャレンジングだったけれど、バンドのツアーや制作など、不規則で移動が多い生活をしていると、ピルを飲み忘れないとも言えない。人によって合う・合わないはある器具なので、誰でも同じ効果がある訳ではないし、子宮の形が合わずに装着出来なかったり、子宮内膜炎などの病気があれば適合外になるとも言われた。
でも、もう二度とあんな思いはしたくはなかった。
2025.09.21(日)
文=藤崎彩織
CREA 2025年秋号
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