子どもたちに愛されるスリランカの駄菓子屋
ローカル感では、南端の街ゴールで訪れた店も印象的だった。ゴール旧市街は、ヨーロッパ統治時代のおもかげを残す世界遺産の要塞都市で一大観光スポットになっている。砦と海の景色はロマンチックな雰囲気がただよい、実際にカップルも多い。


そんな観光色が濃い街にあって、「National Tea Rooms」は旅行者にも地元民にも愛されている店だった。旅中にたまたま知り合った日本人旅行者のケンさんと連絡を取っていたらふたりともゴールに滞在していることが判明し、「ここのカレー、おいしいのよ」とその店に誘ってもらったのだ。
店の席で食事やお茶ができるほか、お菓子や飲みものを売っている。ケンさんとビールを飲んで旅の話をしていると、ちょうど近くの小学校の下校時刻になったようで、白い制服を来た子どもたちが大量に狭い店内へ押し寄せてきた。
大はしゃぎの子どもたちは、席に座る我が背中にずんずんぶつかりながらも、我先にとアイスキャンディーを買っていく。男子の一団が去ったと思ったら、今度は赤いネクタイをした女子の一団が来た。ぼくもケンさんも勢いに圧倒されながら、「日本の駄菓子屋みたいだね」と笑った。

この店には、翌日の夜にもひとりで訪れてカレーを食べた。そのときは、隣のテーブルで店の親子4人が横並びになって夕食のパスタを食べたり、娘たちは宿題をしたりしていた。カレーじゃないんだ。家族の風景に混ざった自分がまるでホームステイに来ているような感覚だった。


地元の朝の一杯は自然派ハーブドリンク
このようにあちらこちら旅して、そして食べてきたわけだが、移動中にも“ロードサイドドリンク”なるものを楽しむことができる。

ある早朝、南西部ベルワラのフィッシュマーケットを見学したあと、トゥクトゥクドライバーから「スリランカ人が朝に飲むエナジードリンクがあるんだ」と聞き、連れていってもらうことに。街中の道路沿いに簡素な屋台が設けられ、女性がなにやら緑色のドリンクを大きなジョッキに注いでいる。

見た目はスムージーのようだが、これはコラキャンダと呼ばれる“ハーブのお粥”だ。店によって具材はちょっと違うようだが、一般的にはカレーリーフやゴトゥコラ(ツボクサ)、ココナッツミルク、ニンニクなどに少量の米を入れた温かいスープで、栄養たっぷり。市場帰りや通勤中の人たちが次々にトゥクトゥクやバイクを止め、くいっと一杯飲んでいる。

飲んでみると、薄味……すごくおいしいというわけではないからそれがまた体によく効きそうな気にさせる。ジョッキで量も多いので、味わいすぎないようにしてごくごくっと一気に飲み干した。エナジードリンクと言われたからレッドブルとかリポビタンDみたいな刺激強めのものを想像したが、自然素材を使ったやさしい一品だった。
ロードサイドには、スリランカ原産のキングココナッツの売店もたくさん。その場で切ってストローを差してくれて、飲んでみるとさわやかですっきりした飲み口。丸ごとひとつを抱えて飲みながらのトゥクトゥクドライブは気分も高めてくれる。


絶品カレーにはじまり、ぼくにとってはときに辛すぎたり薄味だったりというのもありながら、スリランカの日常風景に溶け込んだ“地元の味”は五感を刺激してくれた。みなさんもスリランカを訪れたときには、「アユボワン!」ってあいさつしてローカルな店に挑戦してみて!
*記事の情報は2024年9月時点のものです。
一ノ瀬 伸(いちのせ・しん)
ライター。1992年、山梨県市川三郷町生まれ。立教大学社会学部卒業後、山梨日日新聞記者、雑誌「山と溪谷」編集者などを経て2020年からフリーランス。時事やインタビューのほか、旅や自然、暮らし、精神などに関する記事を執筆している。

2025.09.18(木)
文・写真=一ノ瀬 伸