ビーチリゾートやアーユルヴェーダ、世界遺産の仏教遺跡に大自然のサファリ……とさまざまな魅力がある島国スリランカ。観光立国だけに観光客向けのレストランやカフェもたくさんあるけれど、せっかくなら“地元の味”にトライしてみたいもの。というわけで、今回は、旅のなかで見つけたスリランカのローカルグルメをご紹介。家庭的な絶品カレーに激辛屋台メシ、そして謎のご当地エナジードリンクも。


あと引く辛さがたまらない家庭的な野菜カレー

 数週間にわたってスリランカ各地をめぐり、道中でいろんなものを味わった。アーユルヴェーダリゾートの健康的な野菜料理や老舗ホテルのビュッフェもおいしかったけれど、振り返って一番印象的だったひと皿といえば、ふらりと入った小さな食堂のカレーだ。

 その食堂はスリランカ中央部、標高1,800メートル台の街ヌワラ・エリヤにある。食品や日用品のショップが立ち並ぶ通りから路地へ入ったところに、「DHATHA HOME FOODS」の看板を掲げている。ぼくは夕食で訪れたのだが、路地は真っ暗で店に入るのになかなか勇気が必要だった。

 「食事しに来たの? どうぞ入って」。ぼくに気づいた店の青年が、英語で声をかけてくれた。店内は、テーブル席が数個あるのみとこじんまりしていて、メニュー表は見当たらない。「ベジタリアン向けのカレーか、きょうはフィッシュやビーフのカレーも用意できるよ」とのことで、ベジタリアンを注文してみた。

 少しして、厨房で調理するおばちゃんが「スパイシーなの、OK?」と聞いてきた。辛い料理は好きだけど、スパイシーの基準が日本人のそれとは絶対に違うはず。安易にイエスと言わないほうがいいだろうと、“ちょっとだけ好き”という微妙なニュアンスを雰囲気で伝えようと努めたら、おばちゃんはニコッとしてくれた。

 そして、小皿がテーブルにずらりと並ぶ。ダル(豆)やナスなど3種のカレーに、ネギのサンボル(和えもの)、豆のフライスナックのパパダム、そしてライスは山盛りだ。派手さはなく、いかにも家庭料理という見た目。おいしそう。スパイスの香りに食欲を刺激され、食べはじめると、もう止まらない。

 おばちゃんは手加減してくれたのだろうが、それでもけっこう辛い。ご飯がどんどん進む。「ライス、もっと食べる?」。半分くらいで、と伝えたつもりだったけれど、再び山盛りによそってくれて最後は死にもの狂いで完食した。はち切れそうな満腹に苦しくも幸せを感じつつ、これだけ食べて数百円というコストパフォーマンスに感動したのであった。

 帰るころにはベジタリアンだというヨーロッパの女性数人が来店していた。グーグルを見てみると、「スリランカで食べたなかで最高のカレー」などとクチコミ評価がかなり高い。地元民だけでなく、ローカルグルメを求める旅行者にも親しまれている食堂のようだ。


ビールのおつまみにぴったりの激辛屋台スナック

 ちなみにヌワラ・エリヤには酒屋がたくさんあって、夕方になると仕事を終えた労働者たちが店前で瓶ビールを持って談笑していた。「寒い地域だから暖まろうと酒飲みが多いんだよ」とホテルマンは言っていた。

 ぼくも一杯やろうと缶ビールを開けると、おじさんがものめずらしそうに近づいてきた。ひととおりのあいさつのあと、「ちょっと待ってろ」と言うと、すぐ近くの屋台で売っているワデという豆の揚げものをひとつおごってくれた。ピリッとからく、ビールのおつまみにぴったり。やさしいおじさんだ。

 屋台グルメといえば、カダラ・テルダーラと呼ばれるひよこ豆のスパイス炒めも食べてみた。世界遺産の古都キャンディの路上で夜な夜な営業しているところに遭遇し、屋台のまわりは地元の人たちでにぎわっていたので興味をもって立ち寄ったのだ。

 ひよこ豆に玉ねぎやココナッツも一緒に炒めていて、容赦のない激辛。それでも地元の人たちはもっと辛くして食べているようだ。ひと袋数十円と安く、「ローカルも観光客も同じ価格だよ」と店のおやじ。スリランカは観光地でもレストランでも二重価格が多いなかで、そう言ったおやじのスマイルは温かく感じられた。

2025.09.18(木)
文・写真=一ノ瀬 伸