ここでしか味わえない、千葉の“発酵食フレンチ”

 チェックイン後は、江戸後期から使われていたみりん蔵を改装したレストラン「ルアン」へ。漆喰の白壁と太い梁が迎える空間は、時を重ねた深みと清新な空気が共存しています。この日のディナーは、地元の風土と季節が詰まった特別コース。

 アミューズは「佐原モッツアレラチーズと生ハム 桃のクーリ」。甘みと塩気、ミルキーな酸味が口の中でひとつに溶け合います。

 続く「水郷鶏のプレッセ 香取野菜のコンディマン」は、しっとりと仕上げた鶏に、彩り豊かな野菜の薬味が香りを添えます。さらに「ヨーグルトとライムのジュレ」が爽やかに口を整え、次の一皿を迎える準備が整います。

 「千葉県産新馬鈴薯と糀の冷製スープ スイカと大葉オイル」は、じゃがいものやわらかな甘みと糀の旨味に、スイカの果汁と大葉の香りが夏らしい涼感を添える逸品。

 魚料理は「鮮魚のハーブコンフィ」「ズッキーニのマリニエール風ソース」「野菜とイカのヌイユ」と、多彩な組み合わせが続きます。ハーブ香る魚の旨味、柔らかなズッキーニの甘さ、イカと野菜の調和——それぞれが異なる発酵のニュアンスを秘めています。

 メインは「千葉県産かずさ和牛のロースト 地野菜添え」。芳醇な肉の旨味を、赤ワイン風味のもろみ味噌が深く引き立てます。発酵由来のコクが肉の甘みと溶け合い、口の中で贅沢な余韻を感じました。

 デザートは「ココナツと蔵元酒粕のムース・グラッセ」と「レモングラスの香る発酵パイナップルのピューレ」。軽やかな酸味と発酵の奥行きが南国の風のように広がります。

 最後はアイスコーヒーでしめくくり。ワインや日本酒、白みりんカクテルのペアリングも一皿ごとに最適で、料理と土地の物語が浮かび上がるような晩餐に。

 食後は「TASTING BAR」へ。地酒や白みりんベースのオリジナルドリンクが並び、飲みながら発酵文化を学べる小さな博物館のような空間でした。

千葉県の発酵文化とのつながり

 じつは千葉県は、日本有数の“発酵文化の聖地”。

 醤油の生産量は全国屈指で、キッコーマンやヤマサといった大手の老舗メーカーをはじめ、下総醬油が人気の「ちば醬油」などがあります。神崎町には、日本で唯一の発酵をテーマにした道の駅「発酵の里こうざき」も。今年3月には「白みりんミュージアム」がオープンするなど、発酵文化を堪能するにはうってつけの旅先なのです。

 利根川水運が盛んだった江戸時代から、発酵食品の生産と文化が息づき、現在もその技は受け継がれています。

 ルアンでの食事は、この千葉県の歴史を一皿に凝縮したよう。何百年と培われた知恵と現代の感性が、料理という形で融合しています。

2025.08.28(木)
文・写真=CREA編集部