この記事の連載

軽井沢の原風景を受け継ぐ庭に憩う

 「星のや軽井沢」の植生は、もともとそこにある在来種に限られています。「人間の作為が透けて見えるような庭ではなく、本来の自然と庭の“間”を目指しています」と話すのは、開業当初から庭を管理・統括している庭師の関口健一さん。日々雑草を抜き、枯れ葉を集め、外来種の繁殖に目を光らせながら、軽井沢の原風景を守っています。

 敷地内には、前身の「星野屋温泉旅館」の時代からそこにあるというカシワやカツラの木が残り、お盆を過ぎると“秋の七草”に数えられる草花もちらほら。秋本番ともなれば、見事な紅葉も見られます。

 チェックイン後の時間帯には、散策しながら集落での過ごし方を案内してくれるアクティビティ「谷の集落巡り」が開催されているので、ぜひ参加してみてください。

創業以来のサステナブル精神は健在

 星野リゾートにとって自然との共生は、「星野温泉旅館」が1914年に創業した当初から掲げてきた重要なテーマです。1929年には、日本で初めてとされる小型の水力発電所を導入していたそうで、その先進性には驚かされます。

 そして2005年、星野温泉旅館を大規模改修し新たに生まれ変わった「星のや軽井沢」は、計画段階から、環境への負荷を極力抑えたエコロジカルなリゾートづくりを目指していました。

 そのコンセプトがEIMY(エイミー/Energy In My Yard)。「自ら使うエネルギーはできる限り自分たちで生産する」という発想から生まれた、自然への負荷を最小限に抑えるサステナブルなエネルギーシステムです。

 地形の高低差を活かした「水力発電」、活火山である浅間山の恵みを生かした「温泉排熱と地中熱の利用システム」、省エネのために工夫された「環境建築」などを組み合わせることで、同施設が消費するエネルギーの約7割(※2017年時点)を敷地エリア内で生産。

 こうした自然エネルギーの活用は、エネルギー消費量や温室効果ガスの排出量を低減する、気候変動対策へと繋がっています。

 現在、施設エリア内には、水力発電所が2か所あります。「星のや軽井沢」の中央を流れる川も、その下流にある水力発電所のための調整池(発電に使う水量を一定に保つ池)や沈砂池(川底の砂や土を沈めて取り除く池)として機能しています。

 こうした水力発電のシステムが、星のや軽井沢を象徴する“水辺の景観”を形づくっているのです。自然地形を生かした水の流れや造形には、日本庭園にも通じる趣と、森羅万象を読み解いてきた先人の感性が息づいているようでした。

2025.08.23(土)
文=伊藤由起
写真=平松市聖
写真協力=星のや
協力=星野リゾート