楽しい夏休みがはじまってもずっと憂鬱なこと――昭和の時代の小学生にとってそれは、宿題の「読書感想文」だったのではないでしょうか。平成、令和と時代は移り、読書感想文を課す学校は減ってきたと聞きますが、文芸編集者としてこの厄介な宿題こそが、若者の読書離れを加速させてはいないかと、それでも心配になることがあります。
本が嫌いなら読まないでも読書感想文は書ける!?
というわけで、これまでもベテラン書店員さんや実作者の方を招いて、「読書感想文の書き方」講座なども開いてきましたが、そこでいちばん目からうろこが落ちたのは、「うちの子は読書が苦手で、まず本を読ませるのが大変なんです」という親御さんの質問に対し、2人の子育て経験もある書店員さんの答えは――「だったら映画やドラマを見て、その感想を書けばいいんです」と。
えっ? えっ? えっー? 本を読まずに映像だけで読書感想文を書くのは反則では、と戸惑いつつ、妙に納得してしまったのは、世の中には小説を原作にした名作映画やTVドラマが溢れているからです。しかし、そこには「原作と映像は必ずしも一致しない」という、大きな落とし穴が実はあります(「映像をノベライズしたもののほうが安全ですよ」とも教えてもらいましたが……)。

確かに小説を映像化する場合、尺(時間)や予算、そして何より文字と映像という表現形式が異なる事情で、原作の登場人物や名場面が省かれてしまうこともあれば、映像では新たなオリジナルキャラクターが活躍して、担当編集者もびっくりというようなことも起こります。が、それをまったく感じさせない、むしろ、小説もドラマもお互い相思相愛状態で展開された作品、かつ読書感想文にぴったりなのが、伊与原新さんの『宙わたる教室』です。
2025.08.07(木)
文=文藝出版局