髙橋藍選手が心に刻んだ小説とは……
誤解しないでほしいのは、読まないで見ること、1冊のうち1篇しか読まないことを推奨しているわけでは決してありません。『宙わたる教室』も『天才望遠鏡』のいずれも、あらゆる世代の読者の心を動かすことのできる、共感できる要素がいっぱい詰まっている作品だからこそ、まずは手に取ってみてほしいのです。
若い世代からの共感という意味で、ぜひもう1冊お勧めしたいのが、坪田侑也さんの『八秒で跳べ』です。バレーボール選手の髙橋藍さんが、本作に寄せてくれたコメントがそれをよく現わしているでしょう。
「日本一になりたい、バレーボール選手になりたいという一心で、毎日厳しい練習に立ち向かっていた日々を思い出した。あのコートの中で感じるプレッシャー、快感、チームメイトとの絆……どれもが尊いものだということも。多感な高校生だからこそ、一つひとつの出来事が大きく心に刻まれる。苦しんだ先に喜びがあることを、この小説は教えてくれる」

著者の坪田さん自身も刊行時はまだ21歳、自身の高校時代の経験が色濃く投影された小説です。もう大人になってしまった読者からすると、登場人物たちのクールな雰囲気は、王道のスポ根小説とはやや趣が異なるし、主人公の景と重要な役割を担う綾との間が、恋愛関係に発展しないのはむしろ潔いほど。けれど、彼らは全力で「好きなことに一生懸命になってはいけないのか」と自問自答し続け、だからこそのリアルなのだと思います。
ちなみに『八秒で跳べ』は2025年の中学・高校の入試問題に、数多く採用されましたが、入試問題とちがって、読書感想文に正解はありません。願わくば、その1冊との出会いが、夏休みのひとときに幸せな体験をもたらすものでありますように。


宙わたる教室
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天才望遠鏡
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八秒で跳べ
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2025.08.07(木)
文=文藝出版局