夕日と夕なぎを感じながら楽しむダイキリは格別な一杯
◆ハウス ウィズアウト ア キー
忘れがたい味な時間といえば、ホテル・ハレクラニの1階にあるダイニング「ハウス ウィズアウト ア キー」で過ごしたひとときは格別のものだった。「毎夜ミニライブとフラダンスが楽しめるんですよ」とスタッフさんが教えてくれる。宿泊者以外の一般客利用も多いようで、まさに店名どおり「鍵のない家」、オープンな雰囲気が心地いい。
ハレクラニは格の高いホテルと聞いて身構えていたのだが、「ハウス ウィズアウト ア キー」のホールスタッフはみなカジュアルな接客で人懐っこく、くつろいで夕食を楽しむことができた。

ピッツァもカレーもステーキもおいしかったのだけれど、酒好きの私としてはホノルルの夕日と夕なぎを感じつつのカクテル、ダイキリが心震えるようなおいしさであったことを書きとめておきたい。ワイキキでカクテルといえばマイタイが人気だが、よりすっきりした味わいのダイキリもいい。
ハワイの海で泳ぎ、夕焼けを眺めつつハレクラニでダイキリを飲む、ああこんな贅沢してバチが当たらないだろうか……! ビーチは目の前、左手にはダイヤモンドヘッドが見えるロケーションもうれしい。

ノンアルコール・カクテルも洒落たものがあり、中でも気になったのが「ゲイブル」だ。ハリウッド黄金時代の大スター、クラーク・ゲイブルから名前がとられている。そう、映画「風と共に去りぬ」でレット・バトラーを演じた彼は1950年代、ハレクラニによく逗留していたのだった。それを知ったバーテンダーが数年前に考案したとのこと。
彼はここでどんな過ごし方をしたんだろう……と想像しながら味わったが、きゅうりとマンゴーが意外なほどマッチする南国的な味わいに目を丸くした。合うものだなあ……ほんのりパイナップルも香って、素敵な一杯だった。この組み合わせ、ドレッシングにもよさそう。ちょっと試してみよう。

私はメニューを読むのが大好きなのだが、「ハウス ウィズアウトア キー」のそれは内容的にかなり面白く、じっくりと読み込んでしまった(ハワイのメニューは大概写真がなく、メイン素材と主な調味料が記載されている)。
白味噌、天かす、もみじおろし、ぽん酢にゆず胡椒といった日本おなじみのものが続々登場するかと思えば、ココナッツシロップやガーリックアイオリ、トロピカルサルサなんてアイテムがそこにシレッと同席する。「え、どんな味!?」と想像する時間が楽しい。
日本含め、各国から多くの移民がやってきたハワイらしいメニューともいえるけれど、ハレクラニの総料理長はクリスチャン・テスタ氏なるイタリア・ジェノヴァ出身の人物というのがまた興味深く。少し話すことが出来たが、イタリア人的なユーモアに富んだ気さくな人だった。

「世界中を食べ歩いてる舌の肥えたお客さんばかりだから、自分も各地を定期的に旅して食べ回っているよ」と彼。長期滞在の富豪も多いだろうから、パーソナルで複雑なリクエストもきっと多いだろう。そのあたりをもっと深く聞いてみたかった。

ハウス ウィズアウト ア キー

2025.08.06(水)
文・撮影=白央篤司