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滞在中に二度も訪問! 旅のハイライトになるスペイン料理

 ワイキキの味な思い出をもう少し書いてみたい。クヒオストリートとルワーズストリートの交差点すぐにある、スペイン料理店「エル・シエロ」のことは、帰国してからもよく思い出す。日本の蒸し暑さにうんざりして、冷たいビールが飲みたくなると「エル・シエロ」のカウンターで飲んだビールは程よい軽さでよかったな、つまみのタパスがまたうまかった……としみじみくるんだ。

 取材で訪ねて「もっと他の料理も食べてみたい!」と思い、ひとり再訪したお店。味はもちろん、量もありがたかった。ハワイの料理はひと皿の量が総じてどこも日本より多め。あれこれちょっとずつつまんで飲んでは、ハワイじゃ無理か……と思ったとき、「エル・シエロ」のタパスと出会えた。

 シェフはアルゼンチン生まれの日系人、マサ・アルナルド・具志堅さん。日本、アメリカ、スペインで飲食店勤務経験があり、日本では丸亀製麺でも働いていたという経歴の持ち主。スペイン料理の多様なおいしさに魅せられて2年前に開店したが、故郷の味であるエンパナーダ(ざっくりいうと、ミートパイ。ルックスは揚げ餃子的でもある)はメニューに入れて、パセリをたっぷり使うアルゼンチン名物のチミチュリソースはタコのガリシア風にも添える(これが合う!)。

 ハワイといえばガーリックシュリンプが定番の人気料理だが、それもいいけどここのカウアイシュリンプを使ったアヒージョをぜひ試してみてほしい。身がしっかりとしてコクに富み、自家製のパンがまたうまくて、ビールが進んじゃうんだねえ……。

 「ハワイの製麺会社、サンヌードルのラーメン用の粉でパンを作ってるんです。おいしいでしょう?  丸亀製麺時代に小麦粉での製麺をたっぷり研究できたので、その経験がものを言ってます」とマサさん。切れ長の目とタトゥびっしりの両手に最初は正直ちょっとビビったのだが、話してみるとなんとも温和で礼儀正しい好青年だった。

 小いわしの酢漬け「ボケロネス」は日差しに疲れた体に沁みる酸っぱさがおいしく、いいスターターになる。白身魚のすり身フリット「ブニュエロス」は丁寧な仕事を感じさせて、にんにくマヨネーズがお酒を呼ぶなあ。マサさんの創作意欲が満ちる「トリュフエッグカスタードプディング」は、彼なりのトルティージャ(スペイン風オムレツ)の解釈表現。あえて写真は載せません、実に楽しい一品なのでぜひ。

 Hana Koa Brewingのブロンドエールをぐびぐびとやりつつ、あるいはすっきりした白ワインのチャコリと一緒にマサさんのタパスを楽しむ時間は、きっとハワイ旅行のハイライトのひとつになると思う。シメには「スペイン料理じゃないけど、人気でメニューから外せなくなっちゃって」と笑うウニのスパゲッティ、あるいは自慢のパエリアでどうぞ。

 余談だが、シェフがかつて働いていた丸亀製麵、なんとハワイのワイキキビーチ近くにも店舗があり、ものすごい人気だ。味とお値打ち価格が観光客、地元住人の両方に支持されて、ある日の平日昼間など実に70人ほどの行列ができていた。現地限定メニューもあり。

エル・シエロ

https://elcielo-hawaii.com/

2025.08.06(水)
文・撮影=白央篤司