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「美しい琵琶湖の真珠を、日本で広めたい」

 そんな琵琶湖真珠を販売するのが、滋賀県大津市の「神保真珠商店」です。1966年に創業し、現在は3代目の杉山知子さんが後を継いでいます。創業者の杉山さんのお祖父さんは、店舗を持たずアタッシュケースに入れて真珠を販売をしていました。事業は杉山さんの父に引き継がれましたが、琵琶湖の環境の変化から次第に生産者が減り、厳しい時代を迎えました。

 杉山さんは幼い頃から祖父や父の姿を見て、いつか真珠を販売したいと思いながらも業界の厳しい現状を見て、短大卒業後はCAD設計士として会社員生活を送りました。

「37歳の頃、転機があり独立してフリーランスの設計士で生計を立てながら、父が持つ真珠の在庫を売り切ろうと思いました」

 すると、真珠に関わるうちに真珠への想いがますます強くなっていきます。

「父が抱えていた真珠を売り切ったら真珠販売は終わろうと思っていましたが、次第に養殖業者さんの想いのこもった、この美しい琵琶湖の真珠を日本で広めたいと思うようになりました」

 2014年に、京都駅から電車で10分という便利な立地に実店舗をオープン。レストランだった場所を改装し、ラグジュアリーさと温かな空気を醸し出す空間で販売しています。

 店舗の奥には事務所があり、ラウンド、バロック、スティック、ボタン玉、ドロップ、フラットなど、養殖業者の技術で作られるさまざまな真珠を買い取り、杉山さんと従業員がジュエリーへと仕上げます。

 「マルコポーロの東方見聞録の記述や、柿本人麻呂の選歌に、琵琶湖の真珠ではと考えられる表現も残されているんです」と、琵琶湖の真珠の魅力を教えてくださる杉山さん。

 年季の入った道具を使いこなしながら、さまざまな形をした真珠と向き合い、それぞれの魅力を際立たせるように手を動かします。

 こうして、ていねいな手仕事で世界に一つのジュエリーができるのです。

2025.08.16(土)
文・写真=神谷加奈子