まずは塩せんべいで迎えられる「甘味の時間」

席に着くと、煎茶とともに供されるのは、豚形の塩せんべい。「トントン拍子にことが運ぶように」と願いを込めて先代女将が考案したこの可愛らしいお煎餅は、香ばしさとほどよい塩気で、甘味を待つ間の高揚感を静かに盛り上げてくれます。
ここからは「紀の善」で見逃せない、人気メニューをみていきましょう。
●抹茶ババロア

「紀の善」と言えば、やはり「抹茶ババロア」を語らずにはいられません。先代の女将・冨田恵子さんが考案し、TVドラマをきっかけに全国に知られるようになった逸品は、まさにこの店の代名詞ともいえる存在です。

「抹茶ババロア」の構成要素は、甘さを控えたまろやかなババロアと、上品な粒あん、そしてたっぷりと添えられた柔らかなクリーム。まずは何もつけずにババロアだけを口に含めば、抹茶の風味が爽やかに香り、「これぞ、紀の善の味!」と心が躍ります。
抹茶の存在感のある味わいは、宇治の上等な抹茶を惜しみなく使っているからこそ。粒あんとの絶妙な相性や、クリームとともに広がるまろやかな味わいは、他では得がたい唯一無二の美味しさです。
●あんみつ

続いてご紹介したいのは、「あんみつ」。清らかな透明感のある寒天はみずみずしく、やさしい甘さのこしあんに、ぎゅうひ、缶詰の果物が加わることで、ノスタルジックな王道のあんみつが完成します。

黒蜜はすっきりした上品な味わいで、甘みもまろやか。製餡主任が毎日の湿度に合わせて水分を調整しているというこしあんは、なめらかで舌にすっと馴染みます。この繊細な仕事が、「紀の善」のあんみつを唯一無二のものにしているのでしょう。
2025.07.19(土)
文=小松めぐみ
写真=佐藤 亘